宝塚星組公演「龍の宮物語」の結末考察、後編です。
前編はこちら
後編では、清彦が玉櫛笥(たまくしげ)=玉手箱を開けると何が起きたのか、深読み考察をしてみたいと思います。
もし清彦が龍の宮に戻らず地上で玉手箱を開けていたら?
玉姫(有沙瞳)に再会した清彦(瀬央ゆりあ)は、「玉手箱を開ければ玉姫から解放されるかもしれないと思ったが、二度と出会えないと思うと開けられなかった」と言っています。
もし清彦が龍の宮に戻らず、地上で玉手箱を開けていたらどうなっていたのか?
玉手箱が記憶という名の呪縛であるならば、この時点で清彦が玉手箱を開けたら、玉姫のことも龍の宮のことも全て忘れ去ったのではないかと思います。
でも清彦の境遇を考えると、それで幸せになれるとも思えません。自分だけがなぜ数十年後の世界にいるのか、その理由もわからないまま、見知らぬ人たちの中で生きていかなければいけないわけですから。
それもある意味呪いなのかもしれません。
(とはいえ、この説明で龍神が納得するかと言うと疑問ではあります。まぁ清彦が玉手箱を開けて龍の宮の記憶を失えば、また同じ手で龍の宮に誘い込めると思った、と解釈しておきましょうか)
物語の最後に清彦が玉手箱を開けた時には何が起きたのか?
物語の最後、玉姫(有沙瞳)は清彦(瀬央ゆりあ)を庇って龍神(天寿光希)に斬られ、絶命します。
龍神の弟・火遠理(天飛華音)は、清彦に「もう二度とお前にもお前の一族にも会うことはない」「たちまち我らのことも忘れ去るだろう」と告げます。
そして再び地上に戻った清彦は、傍らにあった玉手箱を「もう会うことはないのだろうな」とあっさり開け、泣き崩れます。
すると「私のことは忘れてください」という玉姫の声が響き、雨が降り出します。
「雨降る日、必ずあなたのことを思い出す」と清彦が誓って幕、となります。
この最後の一連の流れも、解釈に迷うところです。
まず清彦はなぜ玉手箱を開けたのか。
これは正直しっくりくる答えが見つからないんですが、「もう会うことはないのだろうな」という清彦のセリフを素直に受け取ると、玉姫がもう存在しないことを改めて実感するというか、自分に言い聞かせるためなのかなと。
次に、玉手箱を開けた時に、何が起きたのか。
これは「何も起きなかった」だと思います。
(舞台上で表現されていないだけで、清彦さんが浦島太郎と同じく一気におじいさんになっている可能性も無くはないですが、今回はひとまずそれは置いておきます)
「玉手箱を開ける=龍の宮の記憶をなくす」はずが、玉手箱を開けた後も清彦は玉姫のことを覚えています。
玉姫が死んだから、玉手箱の力も失われた、という考え方もできますが、私としては「清彦の想いが、記憶を消そうとする玉手箱の力を上回った」と思いたいですね。
「私のことは忘れてください」と清彦を解放しようとする玉姫に対し、「必ずあなたを思い出す」という清彦。
清彦が忘れないことで、玉姫は救われたのだと思います。
再び龍の宮から生還した清彦はその後どうなったのか?
物語中の会話で、清彦は玉姫の元恋人の血を引く最後の一人だと言われています。
龍神の弟・火遠理は、清彦に「もうお前にもお前の一族にも会うことはない」と言っていますが、最後の清彦の絶望ぶりを見ると、正直この後誰かと家庭を築き子孫を残していくとは考えにくいです。
もう一つ、清彦は再び龍の宮で時間を過ごしているので、2度目に戻ってきた時にも地上ではさらに月日が流れていると思われます。
1度目は数日過ごして30年分で、それに比べると短い時間なのは間違いないですが、おそらく数年は過ぎているでしょう。
清彦が2度目に龍の宮に行く前の時間軸(第2幕)は1930年代半ばと思われるので、戻ってきた頃は1940年前後。おそらく日本は太平洋戦争直前か真っただ中です。
そのような厳しい時代に、生気を失った清彦が生き抜けるとも思えないので(山彦(天華えま)だったら何とか生きていきそうですが)、龍の宮から戻った清彦はほとんど廃人状態で、数年後に亡くなる、というのが暗いですが私の想像してしまう行く末です。
元恋人の血を根絶やしにする、という玉姫の復讐は、奇しくも愛する清彦によって成し遂げられてしまった、ということになるでしょうか。
というわけで、まとまりも無く長々と書いてしまいましたが、
龍の宮物語における私流の玉手箱の解釈をまとめると、
玉手箱=地上と龍の宮を繋ぐ存在
玉手箱を開けると、龍の宮との繋がりが切れる=龍の宮にまつわる記憶は消える
しかし
清彦の想いが強かったため、清彦は玉姫を忘れなかった
という感じでしょうか。
でも他にも気になるポイントもあるので、別の解釈も色々できるだろうなと思っています。
とりとめのない深読みに長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!
次回は清彦(瀬央ゆりあ)の親友として登場する山彦(天華えま)の正体について、深掘りしまくってみたいと思います。
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