山彦は老けたがそれでも若い?更なる結末
龍の宮から生還した清彦(瀬央ゆりあ)に、もう2度と夜叉ヶ池には近づくな、と釘を刺す山彦(天華えま)ですが、玉姫(有沙瞳)に心を奪われたままの清彦は、もう一度龍の宮に行くことを決めてしまいます。
自ら龍の宮に向かう前、30年前の清彦を知る白川(朱紫令真)とお梅(侑蘭粋)に、清彦が「山彦にすまないと伝えてください」と言うと、新たな事実が分かります。
山彦は関東大震災で随分前に亡くなっていたのでした。
清彦が島村家の別荘で再会したのは、山彦の亡霊ということになります。
清彦が龍の宮から戻ってきた30年後の世界は、世界恐慌の後と台詞で語られているので1930年代半ば頃と考えられます。
関東大震災は1923年なので、そこで亡くなった山彦は亡霊になってもそれ以上老けないと想定すると、山彦が40代、白川とお梅が50代位の姿ということになるでしょうか。
確かに、島村家の別荘で清彦の前に現れた山彦は、髭を生やし中年の男という風情になっていましたが、同じく年を重ねた白川、お梅が白髪交じりの姿になっているのと比べると少し若い感じがします。
出演者の方々がこのように計算して作っていたかはわかりませんが、時系列を考えてみるとなるほどと納得感がありました。
時系列で山彦の人生を考えてみる
というわけで、改めて山彦自身の人生を時系列で考察してみたいと思います。
1840~50年頃(江戸後期)
山彦が生まれる
着崩した袴姿から考えると、下級武士の家柄あたりかな?と
1860~70年頃(幕末~明治初期)
山彦が龍の宮に連れていかれる(20-25歳)
孫の清彦が存在しているということは、龍の宮に行く前の段階で山彦は既に結婚していて息子(清彦の父)がいたと考えられます
とは言え龍の宮から戻った後で書生仲間に紛れられる位の風貌なので、龍の宮に行く時点での山彦は20代前半かな?と想像します
1890年代後半(明治中期)
山彦が龍の宮から逃げ帰ると約30年の時が経っていた
(人間界で換算すると50歳前後?だが山彦の見た目は20歳前後のまま)
山彦の妻・息子はおそらく既に他界しており、何らかの形で孫の清彦(18歳前後)を見つける?
清彦を自分と同じ目に遭わせないために、山彦は清彦の書生仲間として島村家で共に過ごす?
山彦が清彦とどのように出会ったのか「龍の宮物語」の中では描かれていませんが、なんとなくこんな感じではないかなと想像します
1899年~1900年 夏の終わり 第1幕の舞台
夏休みに書生仲間で島村家の別荘に滞在している時に、近くにある夜叉ヶ池の怪談話が話題に上り、清彦が度胸試しに行くようけしかけられる
山彦は止めようとするが、清彦は夜叉ヶ池に近づいてしまい、玉姫に龍の宮へ連れていかれる
1901年(明治34年)
日英同盟交渉開始(締結は1902年1月30日)
清彦は夜叉ヶ池に行ったきり行方不明になったまま
書生仲間は卒業後の進路について話し合う
1905年(明治38年)
日露交渉開始(日露戦争後の交渉)
山彦だけ島村家に残る
1923年9月1日(大正12年)
関東大震災で山彦が亡くなる(40歳前後)
1930年代前半(昭和初期)第2幕の舞台
第1幕から約30年後 清彦、龍の宮から戻る(夜叉ヶ池近くの島村家別邸前)
その1年後 清彦が戻ってから1年間夜叉ヶ池の近く村々で日照りが続く
清彦、島村家別邸に行き山彦(霊)から夜叉ヶ池と祖先についての真相を聞き、再び龍の宮へ行く
なぜ山彦は龍の宮へ行ってしまったのか?
なぜ山彦が「夜叉ヶ池には近づくな」という一族の鉄の掟を破ってしまったのか、劇中では触れられていません。
私の勝手な妄想としては、山彦はやんちゃな雰囲気がするので、「行くな」と言われると余計行きたくなってしまって、好奇心からつい池に近づいてしまったのかな、と想像します。
山彦の生まれは下級武士で家は貧しく(イメージは大河ドラマの西郷どんみたいな感じ)、幕末で世の中は騒がしいけれど美濃の田舎に住む山彦にとっては遠い世界の話のようで、何か面白いことないかな~というようなノリで夜叉ヶ池に行ってしまったのかな?と。
山彦自身、そんな龍神や雨乞いの生贄といった大昔の伝説なんて誰が信じるものか、と思っていた気もします。
山彦さん龍の宮で割と長居していた模様
龍の宮に着き、皆から豪勢なもてなしを受けた山彦(天華えま)は「ずっとここに居ても良い位だ~」とご機嫌な様子です。
同じようにもてなされても「自分の身の丈に合わない」と恐縮し、居心地の悪さを感じている清彦(瀬央ゆりあ)とは、対照的なキャラクターであることがわかります。
「龍の宮物語」の時系列を考えている時、最初山彦は清彦よりも龍の宮にいた時間は短いのでは?と思っていました。
玉姫(有沙瞳)は清彦を昔の恋人に重ね惹かれたからこそ、色々と龍の宮を案内したり、清彦に膝枕までして!(笑)殺そうとするまでに時間が掛かった様子があったので、「小賢しい」と酷評していた山彦対しては、そんなに時間を掛けずに手を下そうとするのでは?と。
ですが、山彦が龍の宮から戻った時点で孫の清彦が20歳近くになっていることを考えると、人間界の時間軸で少なくとも30年から40年近く経っていそうなんです。
ということは、山彦も清彦と同じかそれより長い位の時間を龍の宮で過ごしていたと思われるので、山彦さん、龍の宮での宴会を随分楽しんだ模様です!
清彦のことを一番想っているのは山彦 by天華えま
タカラヅカ・スカイステージのNOW ON STAGE番組内で、山彦を演じる天華えまが「清彦のことを一番想っているのは山彦です!」と言っていました。
この物語を山彦視点で見てみると、本当にその通りというか、龍の宮から戻った後の山彦は、清彦のためだけに生きていたと言っても良い位だと思います。
山彦が龍の宮から数十年後の世界に戻ると、幼かった息子(清彦の父)は既に亡くなっていて、妻(清彦を育てた祖母)も、年齢からすると亡くなっていたのではないかなと思います。
山彦の奥さんは、ある日突然夫が行方不明になって、苦労して育てた息子も自分より早く亡くなってしまい多難な人生だったのでは、と想像してしまいます。
清彦は「夜叉ヶ池に行ってはいけない」という一族の掟を知らなかったようなので、山彦は妻にも幼い息子にも、この掟をまだ話していなかったのかもしれません。
もし山彦の奥さんがその話を知っていたら、絶対に夜叉ヶ池に近づかないよう孫の清彦にも強く言いそうですからね。(そして清彦はちゃんと言いつけを守りそうです)
龍の宮から戻った山彦は、妻も息子も既にこの世にいないと知り、とてもショックだったと思います。そして孫の清彦を見つけ、この子を自分と同じ目に遭わせてはいけない、とその後は清彦を守るためだけに生きてきたんでしょう。
(これは私の妄想なので経緯は違うかもしれませんが)清彦が東京に出て住み込みの書生をやっていると知り、自分も書生として島村家に入り込む山彦。数十年後の世界に順応して生きていくのも大変だっただろうなと思います。
でもさすが山彦はバイタリティありますよね。同じく数十年後の世界に戻った清彦は、何もできず浮浪者になっているわけですから。
とはいえ、前編で突っ込んだ通り、山彦的にどうしてもトレンドの書生服は気持ち悪くて着る気になれず、少し周りとは違う服装をすることになったと。
しかし山彦の献身も空しく、清彦は龍の宮に連れていかれてしまいます。清彦が夜叉ヶ池に行って戻らないと分かった時の山彦が、本当に絶望的な表情をしていて悲しいです。
山彦が号泣するのも納得の切ない結末
清彦が行方不明になってからの山彦は、絶望に苛まれながらも、清彦が戻るのをずっと待っていたんだと思います。
清彦と再会しやすいよう、できるだけ長く島村家に留まり、その後も関東大震災で亡くなるまでの約20年間、島村家の近くで暮らしていたのではないかなと。
龍の宮から戻った後、清彦は「一度東京の島村家を訪ねた」と言っているので、山彦の予測は正しかったんですよね。
白川が「島村家は震災で壊れてしまった」と言っているので、関東大震災の発生時に家にいた百合子と、その近くで暮らしていた山彦が犠牲になってしまったのかな、と想像してみたり。
そして亡霊となった山彦は、夜叉ヶ池近くの島村家の別荘でずっと清彦の帰りを待っていたんですね。
30年間清彦を待ち続けてようやく会えたのに、山彦の制止を振り切って再び龍の宮に向かってしまう清彦。悲しすぎます。
最後に山彦が歌う主題歌のリプライズが切なく、「君沈む夕暮れ 届かぬこの声」とプロローグと同じ歌詞なのに、山彦から清彦への想いにぴったりと重なっていて素晴らしいです。
「龍の宮物語」を初めて見た時(千秋楽の映像です)、この最後の歌の時に、山彦が両目からずっと涙を流しながら歌っていたのが印象的でした。
その時は初見でストーリーを追うのに必死だったので、天華えまさん凄い熱演だな~位に思っていたのですが、こうして山彦目線で龍の宮物語を追っていくと、そりゃ泣くよ!という感じですよね。
山彦にとって、清彦を龍の宮に行かせないことが唯一の生きる目的だったのに、それも果たせず自分は亡くなり、九死に一生を得て戻ってきた清彦を2度目も止めることができず、清彦は再び龍の宮に行ってしまう。
山彦からすると、とても悲しい結末です。
星組の演技巧者が揃った「龍の宮物語」
龍の宮物語は、瀬央ゆりあ、有沙瞳、天寿光希と星組の芝居巧者が揃った舞台でした。
しばらく星組を見ていなかったので、天華えまさんの芝居をじっくり観るのも龍の宮物語が初めて位の状態だったのですが、山彦の役作り素晴らしかったです。
再び龍の宮へ行ってしまう清彦を見送る場面、山彦は涙を流しているんですが、表情はふっと笑顔だったりするんですね。
清彦を止められなかった自分への自嘲にも見えますし、「清彦が望むなら、もうこれで良かったのかもしれない」と悟ったようにも見える演技で、とても味わい深いかったです。
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