瀬央ゆりあ主演「龍の宮物語」の結末を考察~玉手箱は何を意味するのか?

宝塚星組

星組公演「龍の宮物語」、残念ながら映像でしか見れていないのですが、瀬央ゆりあ・有沙瞳はじめ星組生の演技や演出も素晴らしく、ここ数年の中で一番ハマった作品です。

ですが、実は劇中で重要な小道具として出てくる玉櫛笥(たまくしげ)の持つ意味がスッキリわからず、見終わった時にその部分がモヤモヤしたままでした。

 

その辺りや主人公・清彦の行く末について、指田先生は敢えて観る側の想像の余地を残した作りにしているのかな?という気もするので、私なりの考察と解釈をして、このモヤモヤを夜叉ヶ池の底にでも沈めたいと思います(笑)

 

はじめにお断りしておくと、かなりとっ散らかった内容になっておりますので、その点ご承知の上お進みください!

 

龍の宮物語の中では「玉櫛笥(たまくしげ)」と呼ばれていますが、ここでは分かりやすく玉手箱と呼びます。

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玉手箱の中身=時間?

龍の宮物語で玉手箱が最初に出てくるのは1幕の終わり。

 

清彦(瀬央ゆりあ)を殺さず地上に返す条件として、「2つの呪いを持たせる」と玉姫(有沙瞳)が龍神(天寿光希)に告げます。

 

1つ目の呪いは玉手箱。2つ目の呪いは時間です。

 

龍の宮物語の原典でもある「浦島太郎」では、竜宮城から戻った浦島太郎が「常に持っているように、でも開けてはいけない」と渡された玉手箱を開けると、中から白い煙が出てきて、一瞬にして浦島太郎はおじいさんになってしまいます。

 

他の結末としては、老人になるのではなく一気に灰になってしまう(竜宮城で過ごした時間が、人間の寿命を超越していたから)、鶴になって飛んでいく(鶴と亀は長寿を象徴する生き物だから?)というパターンもあるようです。

 

いずれにしても、浦島太郎のお話では、玉手箱に入っていたもの=時間と考えられます。

 

玉手箱を開けることで、浦島太郎は現世の時間軸に戻ってしまうということですよね。

 

しかし龍の宮物語では、2つの呪いとして「玉手箱」と「時間」が同時に示されています。

 

30年後の世界に戻った清彦が、時間の呪いの洗礼を浴びている様子は、2幕冒頭で既に描かれています。

なので、玉手箱の中身も「時間」ということは無さそうかな、と思います。

 

「玉手箱=龍の宮へのパスポート」説

玉姫は「もう1度会いたくば、開けるな」と清彦に玉手箱を渡します。

 

つまり開けていないうちは、玉姫にまた会える=竜宮城に戻ってこられるとも考えられます。

 

とすると、玉手箱は龍の宮と現世を繋ぐパスポートや通行証のようなもので、一度開けたらその効力がなくなってしまうという説。

 

これはちょっと突飛かもしれませんが、なぜ清彦は自力で龍の宮に戻ってくることができたのか?というところからの連想です。

 

これまでは玉姫(とその手下たち)が地上に行き、ターゲットに接触して夜叉ヶ池に引きずり込む、という形で人間を龍の宮に連れてきていました。

 

しかし2度目に清彦が龍の宮に来た際、玉姫は地上に行っていません。

どうやって清彦が自力で龍の宮に入れたのかは何も説明がないですが、この玉手箱が龍の宮へのパスポートのような機能を持っていて、ドラえもんの「どこでもドア」をくぐる感じで、清彦は夜叉ヶ池の畔から龍の宮に来ることができたのかな?と。

 

もう一つ気になるのは、玉姫が「清彦に玉手箱を持たせる」と言った時の龍神の反応です。

龍神は玉手箱を見て、「お、それか」というような表情をしていて、玉手箱を持たせたうえで地上に返すという玉姫の提案に、一応納得したような素振りなんですね。

 

龍の宮には人間が羨むような数々の金銀財宝があります。

龍神は人間の欲深さ、浅ましさをよく知っているでしょうから、地上に戻った清彦が困窮すれば、金目の物を求めてノコノコと龍の宮にやってくるかもしれない。そうすればまた清彦を殺すチャンスが訪れる、と納得した、とも考えられるかなと。

 

この場合、玉手箱の呪い=人間の奥底にある欲望や業をあぶりだす、というような感じでしょうか。

 

でも当然ながら玉姫は、清彦がそんな欲深い人間ではないとわかっているので、玉手箱を呪いと呼ぶのは少し違和感があります。うーん難しい。

 

まぁ玉手箱を持っている=龍の宮と繋がりが切れないという呪縛、とも言えるでしょうか。

玉手箱=記憶という名の呪縛

玉手箱を渡す時、玉姫は清彦に「もし再び私に会いたいと思うなら、決して箱を開けてはなりません」と告げます。

 

「玉手箱を開ける=もう玉姫には会えなくなる」ということですが、これって考えてみると結構強気というか不思議な発言ですよね?

 

清彦は玉姫に殺されかけたわけですから、普通に考えたらもう一度会いたいと思うはずがありません。

 

地上に戻った清彦があっさり玉手箱を開けて、「これでもう玉姫に狙われることもない!よかった~」となる可能性もあります。

もし山彦(天華えま)が龍の宮から玉手箱を持ち帰っていたら、そうしていた気がします。

 

でも玉姫は清彦が簡単には玉手箱を開けられないことをわかっていて、もしくはそう願って、渡したように見えます。

 

上手く言えませんが、玉手箱には清彦が玉姫に会いたいと思ってしまう呪縛のようなものが備わっているということでしょうか。

少し言い方を変えると、忘れてほしくないと願う玉姫の想いが、呪いのように玉手箱に宿っているということかもしれません。

 

実際、30年後の世界に戻った清彦は、玉姫の出てくる悪夢に苛まれ、玉姫のことが頭から離れなくなっています。

 

龍の宮滞在中に、既に清彦はどうしようもなく玉姫に惹かれているのだと思うのですが、地上に戻っても玉姫のことしか考えられず、狂気すら感じさせるようになっていく清彦の姿は、確かに「呪われている」という言葉が当てはまるかもしれません。

 

静かに正気を失っていく清彦・瀬央ゆりあの演技が絶品

話が逸れますが、龍の宮物語での瀬央ゆりあの演技は全編「清彦」そのもので本当に驚かされるんですが、特に龍の宮から戻った後~再び龍の宮に向かうまでの、どんどん正気を失っていく演技が神がかっています。

 

正気を失うといっても狂って叫んだりするわけではなく、言葉遣いや物腰は控えめで穏やかな以前の清彦のままなのに、大物ヤクザ(美稀千種演じる銀山さん)すら怯ませてしまうような静かな狂気をまとっているんですよね。

人間は自分の理解できないものを目の当たりにすると「怖い」と感じる、清彦が見せる狂気はまさにそれで、久しぶりに凄い演技を見たなと思わされます。

 

だいぶ長くなってしまったので、続きは後編にて。

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