星組新人公演「柳生忍法帖」の偏った感想と本公演とのトーンの違い

宝塚星組

2021年12月2日に東京宝塚劇場で行われた「柳生忍法帖」新人公演をライブ配信で観ました。初めて通し役で芝居をする姿を見る星組下級生も多かったのですが、主演の天飛華音、初ヒロインの瑠璃花夏をはじめ全体としてお芝居が上手く、高いレベルでまとまっていた新人公演だったなという印象です。

 

また、新人公演を見ることで、改めて「柳生忍法帖」という話の構造や、本公演で演じているメンバーの役作りの意図が見えた部分もあり、とても良い時間でした。

その中でも今回の新人公演で、特に芝居面で印象に残った脇役メンバーを中心に感想を書いてみたいと思います。

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千姫:澄華あまね(本役:白妙なつ)

個人的な今回のMVPはこの人、千姫を演じた澄華あまねです。本役・白妙なつ演じる千姫とは全く違う人物像の千姫を作り上げていました。

 

本公演の千姫は序盤から一貫して母性を感じさせて、七本槍への仇討ちを指示するのも、堀一族の女たちの思いを汲んでそれを後押しする、というような構図に見えます。

 

一方澄華あまねの千姫は、一言で表すと「厳格」という雰囲気で、厳しさを強く感じさせる人物像でした。自分が大切にしてきた東慶寺の掟をめちゃくちゃにした七本槍への怒りがより強く出ていて、千姫の怒りによって「柳生忍法帖」の敵討ち話が始まるという構造がクリアに見えました。

最終的に加藤明成が罰せられるのも、この東慶寺での行いによってなので(殿的にはその場に立ち会ってもいないので、「え?それで?」というようなリアクションですよね)、新人公演を見て、千姫の怒りがこの物語を貫く柱になっているというのが強く出るのもアリだな、と思いました。

 

お千絵に「仇討ちが幕府の差し障りになってはならない」と言い聞かせる場面でも、本公演と新人公演で印象が大きく違いました。

白妙なつの千姫は、自分も過去に同じような苦しみを経験したからこそ、諭しながらもお千絵の気持ちに寄り添っている、という印象がありました。

一方で澄華あまねの千姫は、「公よりも私を優先させるようなことはあってはならない」と厳格にお千絵に言う一方で、夫を徳川家に殺された過去に対して今でも怒りや悲しみが収まっていない、という印象を強く感じさせました。

 

白妙なつの千姫は、自分の辛い過去自体は一旦消化した上で、自分以外にそのような辛さを味わう人を1人でも減らしたい、と思って行動している人物に見えます。

一方、澄華あまねの千姫は現在進行形で苦しんでいるという印象が強く、最後に千姫が笑うところで、敵討ちが成し遂げられて千姫自身も救われたんだなというようなエンディングに見えて、とても面白かったです。

天秀尼:水乃ゆり(本役:有沙瞳)

澄華あまねの千姫との組み合わせの妙と言いますか、水乃ゆりの天秀尼も本役とは違った人物像になっていました。

彼女は声が特徴的なので、演技面で評価を受けにくい気がしているのですが、天秀尼を本役のコピーではなく作り上げていて良かったと思います。

例えば柳生十兵衛(礼真琴/天飛華音)に対して「(敵討ちを)あまり浮かれた気持ちで引き受けてもらっては困るぞえ」という台詞、有沙瞳は十兵衛に釘を刺すような言い方をしているのですが、水乃ゆりは本当に困っているような言い方だった気がします。

それ以外にも有沙瞳の天秀尼ほど成熟していないというか、出家しているものの悩んだり迷ったりという部分をまだ残した人物像に見えました。

 

本公演の千姫と天秀尼は「柳生十兵衛と堀一族の女たちの敵討ち」の物語を見守る立ち位置にいるのに対し、新人公演の千姫と天秀尼は、彼女たち自身も物語の渦中にいるような、堀一族の女たちと同じように苦しんで最後には一歩前進する、という構造に見えて、これはこれでアリだなと面白く感じました。

沢庵和尚:夕陽真輝(本役:天寿光希)

今回の「柳生忍法帖」新人公演のお芝居の芯となっていたのが、沢庵和尚を演じた夕陽真輝だったように思います。

グループ芝居で若いメンバーが入れ替わり立ち替わり台詞を言うような場面でも、夕陽真輝の芝居が安定していることで、場面がひとつ落ち着く感じがありました。

 

本役・天寿光希が軽妙さを強調した台詞回し・役作りなのに比べ、夕陽真輝の沢庵和尚はよりナチュラルな台詞回しで、その中に十兵衛の師匠としての父性や、僧として慕われる温かさのようなものが出ていて良かったです。

堀主水、柳生宗矩:颯香凜(本役:美稀千種、朝水りょう)

星組組長の役と、主人公の父役という「柳生忍法帖」の重要な上級生の役を二役で演じた颯香凜も、芝居をしっかり締める落ち着いた良い演技をしていました。

 

東京の新人公演では、七本槍の平賀孫兵衛・大道寺鉄斎VS堀一族の女たちの殺陣の途中で、赤い刀が舞台に落ちてしまうアクシデントがあり、それが次の場面でも残ったままになっていました。

どう処理するのかヒヤヒヤしながら見ていたのですが、柳生宗矩役の颯香凜が台詞の合間に拾い、沢庵和尚に「軽々しい振る舞いはなさいませんように」と釘を刺すところで、その刀を握って前に突き出すような振りに自然に使っていて素晴らしかったです。

 

今回の新人公演で最上級生だった星組101期の男役は、芦名銅伯を演じた碧海さりおも含め、颯香凜、夕陽真輝と落ち着いた芝居のできる男役が揃っているんですね!新人公演卒業後の舞台も楽しみになりました。

「柳生忍法帖」本公演と新人公演の違い

シリアスな新人公演とエンタメの本公演

今回「柳生忍法帖」の新人公演を見て強く感じたのが、本公演とのトーンの違いでした。

台詞や演出は全く同じ(人数が足りないために新人公演で台詞が少し変わっていたところはありますが)なのですが、新人公演は割とシリアスな日本物のお芝居として皆が役作りをしている印象で、新人公演を見たことで、本公演は意図的にカラッとしたエンターテイメントとしての色を強めに作っているんだなと気づきました。

 

特にコミカル寄りの台詞回しにしている天寿光希の沢庵和尚や、東京公演になってコメディ色が強まった輝咲玲央の加藤明成、天飛華音の多聞坊あたりにその意図を強く感じました。

新人公演で加藤明成を演じた鳳真斗愛もコミカルな演技が上手い人ですが、今回の殿はコメディにせず、新人公演のトーンに合わせて本公演よりも可愛げのない本当に嫌なヤツに作っていたように思います。

鳳真斗愛と澄華あまねは、本公演では加藤明成の手下たちに襲われる村の住人役をしているんですが、立ち回りの途中で喜四郎(鳳真斗愛)が気絶してお浜(澄華あまね)にビンタされていたり、やはり本公演ではシリアス度を抑えてエンタメとして若干軽い感じを差し込んできているなと面白かったです。

瀬央ゆりあの漆戸虹七郎が柳生十兵衛へ過剰に執着する必要性

七本槍に関しても、瀬央ゆりあの漆戸虹七郎は、柳生十兵衛(礼真琴)への個人的な執着というのをかなり強く出していて、それが滑稽に映る時もあるので、大悪役のはずの七本槍としてはどうなんだ?と少し思っていました。

一方、新人公演で漆戸虹七郎を演じた咲城けいは、割とドライというか、十兵衛を始末するのも芦名銅伯に仕える自分の役目のひとつと捉えているような、最初から最後までクールな人物像に見えました。

ただ「柳生忍法帖」のお芝居の流れとして、2番手でラスボスのはずの芦名銅伯(愛月ひかる)やヒロインのゆら(舞空瞳)よりも、後に漆戸虹七郎のクライマックスが来るので、これって実はなかなか厄介な構造なんだな、と。

新人公演のように、銅伯の手下としての漆戸虹七郎という印象が強いと、最後の場面が「なんでお前?もうボスいないけど?」という風にも見えてしまいがちなリスクがあるんだなと思いました。

瀬央ゆりあの漆戸虹七郎が柳生十兵衛への執着を過剰気味に出しているのは、最後の一騎打ちの意味付けをする役割もあり、またその滑稽さが本公演の「柳生忍法帖」のカラッとしたトーンに沿ったものなのかもしれない、と新人公演を見て思うようになりました。

 

同じく七本槍の香炉銀四郎に関しても、本公演の極美慎はとにかく天真爛漫に悪事が楽しくて仕方ないという台詞回しやあっけらかんとした役作りなのに対し、新人公演で演じた大希颯はさらっとクール目かなという印象でした。

どちらもそれぞれの公演のトーンにあっていて良かったですが、香炉銀四郎というキャラクターが際立って見えるのは本公演の極美慎の方かなと感じました。

 

今回ナチュラル・シリアスという要素の強い新人公演を見たことで、本公演の「柳生忍法帖」では、あえてエンタメ性の高いトーンに設定し、各登場人物のキャラクター性を強めに出す方向性にしていることが自分の中でクリアになったなと。

一回きりの新人公演と、何十回も公演し複数回見る人の多い本公演という場では、最適なお芝居のトーンというものが確かに変わるなと思いましたし、比較対象があることでそれぞれの良さもわかって、イチ観客としても有意義な新人公演だったなと感じました。

宝塚歌劇団・礼 真琴、舞空 瞳、愛月ひかるの「星組 大劇場「柳生忍法帖」 (ライブ)」をiTunesで
"ゆらの童歌 (ライブ)"、"童歌~七本槍の歌 (ライブ)"、"柳生十兵衛見参 (ライブ)" とその他を含む、アルバム「星組 大劇場「柳生忍法帖」 (ライブ)」の曲をプレビュー、購入、ダウンロード。 アルバムを¥1,528で購入。 1曲¥204から。

 

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