宝塚星組「ザ・ジェントル・ライアー」の原作「理想の夫」結末までのネタバレあらすじ

宝塚星組

2022年2月に瀬央ゆりあ主演で上演予定の宝塚星組公演、ミュージカル・コメディ『ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~』。

この原作となるオスカー・ワイルドの戯曲「An ideal husband(理想の夫)」のあらすじを、完全ネタバレありで結末までまとめてみました。

宝塚版「ザ・ジェントル・ライアー」では、主役がロバートではなくアーサー(瀬央ゆりあ)になるので、ストーリーの改変なども入ると思われます。あくまで原作「理想の夫」のあらすじということでご理解ください。

結末のネタバレまで知りたくない方は、目次を参考に途中で読むのを止めてください!

オスカー・ワイルドの戯曲「理想の夫」は4幕物のお芝居で、各幕がキレイに起・承・転・結の役割を果たしている気がするので、個人的には2幕目までは結末のネタバレにならずに読めるかな?と思います。

原作はこちらで無料公開されている英語の原文を参照しています。

https://www.gutenberg.org/files/885/885-h/885-h.htm
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第1幕 夜 ロンドンの高級住宅地にあるチルターン邸の客間

ロバート・チルターン邸に登場人物が大集合

ロンドンの名士ロバート・チルターン准男爵(綺城ひか理)邸で夜会が開かれ、ロバートと妻ガートルード(小桜ほのか)が客をもてなしている

ロバートの親友で独身貴族の伊達男アーサー・ゴーリング卿(瀬央ゆりあ)やその父キャヴァシャム卿(美稀千種)、ロバートの妹メイベル(詩ちづる)らが賑やかに集っているところへ、レディ・マークビー(水乃ゆり)に連れられてウィーン社交界の花形ローラ・チーヴリー夫人(音波みのり)がロバートを訪ねてやってくる。

ロバートとチーヴリー夫人は初対面だが、アーサーは以前に面識があった様子。ガートルードも昔チーヴリー夫人と同じ学校に通っていたことを思い出す。

過去の不正をネタにロバートを脅迫するローラ・チーヴリー夫人

チーヴリー夫人(音波みのり)はロバート(綺城ひか理)と二人きりになると、過去の不正をネタにロバートを脅迫し始める。

ロバートの過去の不正とは、政府の機密情報を漏らし金銭を受け取ったこと。18年前、政府高官の秘書をしていたロバートは、「イギリス政府がスエズ運河の株券を買い入れる」という機密情報を、相場師アルンハイム男爵(朱紫令真)に流して大儲けさせた。貧しい貴族だったロバートは、その見返りに受け取った金銭を元手に、外務次官・下院議員という今の地位を築いてきたのだ。

今は亡きアルンハイム男爵最後の愛人がチーヴリー夫人で、彼女はロバートがアルンハイム男爵へ書いた不正の証拠となる手紙を持っているという。この手紙を公表されて今の地位を失いたくなければ、自分の出す条件を飲むよう迫るチーヴリー夫人。

その条件とは、チーヴリー夫人が出資する「アルゼンチン運河計画」を支持する議会演説をすること。ロバートの調査の結果、この運河計画は詐欺同然だということが明らかになっていて、ロバートは明日その調査報告書を議会に提出するところだった。

過去のスキャンダルをばらされたくなければ、その調査報告書を差し止め、逆に議会でアルゼンチン運河計画を支持する演説をするよう脅迫されたロバートは、悩んだ末チーヴリー夫人の言う通りにすると答える。

ダイヤのブローチを見つけるアーサーとメイベル

夜会の客たちが帰った後、アーサー(瀬央ゆりあ)とメイベル(詩ちづる)はチルターン邸でダイヤのブローチを見つける。

アーサーはそのブローチのことをよく知っている様子で、メイベルに口止めをしてブローチを持ち帰る。

ロバートを理想の夫と信じて疑わないガートルード

帰り際にチーヴリー夫人(音波みのり)から「ロバートがアルゼンチン運河計画を支持することになった」と聞かされたガートルード(小桜ほのか)は、ロバート(綺城ひか理)を問い詰める。

ロバートのことを「ひとつもやましいところのない清廉潔白な存在」だからこそ愛し尊敬しているのだと熱く語るガートルードを前にして、ロバートは自分の過去を打ち明けることができない。

結局ロバートはガートルードに言われるがまま、チーヴリー夫人へ「さっきの約束は反故にする」という手紙を書く。

第2幕 翌日昼間 ロバート・チルターンの部屋

アーサーに過去の不正を打ち明けるロバート

翌日ロバート(綺城ひか理)は、過去の不正とチーヴリー夫人(音波みのり)からの脅迫をアーサー(瀬央ゆりあ)に打ち明け、助けを求める。アーサーも昔3日間だけチーヴリー夫人と婚約していた過去があることを明かす。

アーサーはロバートへの協力を約束するものの、2人ともチーヴリー夫人に立ち向かう妙案は思い浮かばない。

その後ガートルード(小桜ほのか)と2人きりになったアーサーは、一般論として「どんな人でも過去に多少の間違いはある」と話題を振ってみるが、ガートルードは「ロバートだけはその例外」と取り合わない。アーサーはガートルードに、何かあったら自分を頼るようにと告げて去る。

ガートルード VS チーヴリー夫人

そこへチーヴリー夫人(音波みのり)が、昨晩チルターン邸でダイヤのブローチを失くしたと訪ねてくる。

学校時代からお互いよく思っていなかったガートルード(小桜ほのか)とチーヴリー夫人は言い争いになり、チーヴリー夫人はロバート(綺城ひか理)が過去の不正で得た金で現在の地位を築いたことをガートルードにばらす。

チーヴリー夫人は改めて、明日までに条件を飲まなければロバートの不正を世間に公表すると脅して去り、ロバートとガートルードはお互いを責め仲違いをしてしまう。

第3幕 その日の夜 アーサー・ゴーリング邸の書斎

ガートルードの手紙

今夜も夜会へ出掛ける支度をしているアーサー(瀬央ゆりあ)の元へ、ガートルード(小桜ほのか)から手紙が届く。

「I want you. I trust you. I am coming to you. Gertrude.」と書かれた手紙を見て、ガートルードがロバートの過去を知ってしまったことを悟るアーサー。

このガートルードの手紙がシチュエーションによって何通りかに読める、というのが後の展開のキーとなるのですが、なかなか日本語でこのニュアンスを表現するのは難しいなと。

できるだけ解釈の幅を残すように直訳すると
「あなたが必要です。あなたを信じています。あなたのところへ向かっています。ガートルード」
という感じでしょうか。

ちなみに過去に出版されている日本語版では以下のように訳されています。

『O.ワイルド全集2』収録「理想の夫」 西村孝次訳 青土社 1989年
「お目にかかりたく存じます。ご信頼いたしております。これからお伺いいたします」

『理想の結婚』 厨川圭子訳 角川文庫 2000年
「あなたにおすがりします。あなたを信じます。あなたのところへ参ります」

アーサー VS 父キャヴァシャム卿

ガートルード(小桜ほのか)がそろそろやってくるだろうというタイミングで、間が悪く父のキャヴァシャム卿(美稀千種)がアーサー(瀬央ゆりあ)を訪ねてきてしまう。

今日こそはアーサーの結婚について真剣に話し合うぞ、と長居を決め込む父に対し、アーサーは執事のフィプス(大輝真琴)に「ご婦人が訪ねてきたら丁重に客間にお通しして、それ以外の訪問者には留守だと伝えるように」と命じ、父を喫煙室へ連れて行く。

すぐにアーサーの家を1人の婦人が訪ねてくるが、それはガートルードではなくチーヴリー夫人(音波みのり)だった。しかし彼女をアーサーの約束の相手と思い込んだ執事フィプスは、チーヴリー夫人を客間へ通してしまう。

チーヴリー夫人は、アーサーの机の上にあったガートルードからの手紙を見つけ、勝ち誇った表情になる。

アーサー VS ロバート

アーサー(瀬央ゆりあ)がようやく父親を帰らせることに成功した途端、今度はロバート(綺城ひか理)が訪ねてきてしまう。

ガートルード(小桜ほのか)に過去を知られてしまったロバートは、妻の愛を失うことに非常に動揺していて、アーサーに助けを求めるが、隣の客間から物音が聞こえてくる。

客間にガートルードがいると思ったアーサーは必死でロバートを追い返そうとするが、そこにいたのはチーヴリー夫人(音波みのり)だった。アーサーがチーヴリー夫人と繋がっていると誤解したロバートは、怒って帰ってしまう。

アーサー VS チーヴリー夫人

アーサー(瀬央ゆりあ)と対峙したチーヴリー夫人(音波みのり)は、自分と結婚するならロバート(綺城ひか理)の不正の証拠である昔の手紙をアーサーに渡しても良いと言い出す。

昨晩再会した時に「自分が誰かを愛したことがあるとするなら、それはアーサーだったと気づいた。もし自分と結婚しないなら、親友のロバートを見捨てることになるが、それで良いのか」と迫るチーヴリー夫人。

しかしアーサーはその脅しには乗らず、逆に昨日見つけたブローチを使って、チーヴリー夫人を追い詰める。このブローチは昔アーサーが親戚に贈ったもので、誰かに盗まれて騒ぎになっていたのだった。

アーサーは、窃盗事件の容疑者として警察に引き渡されたくなければロバートの手紙を渡すようチーヴリー夫人に迫り、ついに不正の証拠となる手紙を焼き捨てることに成功する。

これで一件落着かと思われたが、チーヴリー夫人はガートルード(小桜ほのか)がアーサーへ送った手紙を奪い、ガートルードの浮気の証拠としてロバートへ送りつけてやると捨て台詞を吐いて去っていく。

(戯曲ではチーヴリー夫人の出番は第3幕で終了となります)

ガートルードの手紙のもう一つのポイントは、ピンク色の便せんに書かれているということです。

ガートルードは道徳的なことばかりを考えているような人なので、ピンク色の便せんで何か邪推されるなんて思いつきもしなかったでしょうが、チーヴリー夫人からすれば、女が男にピンク色の便せんで手紙を書くなんて、ラブレターにしか見えないよね、と。

「I want you. I trust you. I am coming to you.」という文章も、確かにこれから逢引きに向かうシチュエーションにも解釈できてしまいます。

第4幕 翌日午前中 ロバート・チルターン邸

アーサーの結末

翌朝アーサー(瀬央ゆりあ)はチルターン邸を訪ねるが、ロバート(綺城ひか理)はまだ職場から戻らず、ガートルード(小桜ほのか)も自分の部屋に引きこもっている。

アーサーは、ロバートがチーヴリー夫人(音波みのり)の脅しに屈せず、昨晩の議会でアルゼンチン運河計画反対の演説をしたことを知る。

父親(美稀千種)に今日中に結婚するようけしかけられたアーサーは、メイベル(詩ちづる)にプロポーズをする。メイベルはアーサーが乗馬に行く約束をすっぽかしたことに腹を立てていたが、元から想いを寄せていたアーサーからのプロポーズを快諾する。

この辺りはあらすじにすると唐突感があるんですが、アーサーとメイベルの会話のやり取りがとてもお洒落で可愛らしいので、原作の台詞を読むと魅力が伝わるかなと思います。

アーサー
Then do tell her I want to talk to her particularly. I have been waiting here all the morning to see either her or Robert.
(メイベルにプロポーズした直後で)それじゃあ僕がガートルードに話したいことがあるって伝えてきてくれますか?ロバートかガートルードに会うために今朝ずっとここで待っていたんですよ。

メイベル
Do you mean to say you didn’t come here expressly to propose to me?
ということは、私にプロポーズしようと思ってここへ来たわけじゃないってこと?

アーサー
[Triumphantly.] No; that was a flash of genius.
(得意げに)違いますよ。あれは我ながら天才的なひらめきだったんです。

メイベル
Your first.
あなたの、最初のね。

アーサー
[With determination.] My last.
(きっぱりと)最後のですよ。

プロポーズしに来たわけじゃないんだけど、と悪びれずに言うアーサーと、それを「あなたってそうよね」とナチュラルに受け入れて切り返すメイベルのやり取りが、とても2人らしくて良い感じだなと思う台詞です。

ガートルードの手紙の行方

アーサー(瀬央ゆりあ)はガートルード(小桜ほのか)に、チーヴリー夫人(音波みのり)がガートルードの手紙を盗んだこと、それを自分たち二人の不倫の証拠としてロバート(綺城ひか理)に送り付けるだろうということを伝える。

アーサーとガートルードはその手紙を秘書から取り返そうとするが、時すでに遅く、ロバートの手に渡ってしまっていた。

しかしロバートは「I want you. I trust you. I am coming to you. Gertrude.」と書かれた手紙を、ガートルードから自分への和解の手紙だと勘違いしたため、2人は本当に仲直りに成功する。

ロバートとガートルード

アーサーの父キャヴァシャム卿(美稀千種)がやってきて、ロバート(綺城ひか理)の昨晩の演説が評価され、閣僚に選ばれたと伝える。ロバートは一瞬喜ぶが、ガートルード(小桜ほのか)の意向に沿い、不道徳な過去を持つ自分は政界から身を引くべきだとその話を断ろうとする。

アーサー(瀬央ゆりあ)はガートルードに対し「ロバートはあなたを愛しているから、筋の通った人間でいてほしいというあなたの理想に沿って、政治家としての人生を諦める犠牲を払おうとしている。あなたはロバートの一生を不幸にしてしまって良いのか」と訴え、ガートルードはついに「理想の夫」ではないありのままのロバートを受け入れ、一緒に生きていくことを決める。

その後更にひと悶着ありつつ、最終的にはガートルードの手紙の真実もロバートに明かされ、アーサーとメイベル(詩ちづる)の結婚も認められ大団円となる。

「理想の夫」で描かれる対照的な2組のカップル

ロバートとガートルードは相手を「理想の夫」「理想の妻」として見すぎていたために、関係が破綻しかけますが、最後にはお互いに現実の相手を受け入れて一緒に歩んでいくことを決めます。

そしてロバートとガートルードと対照的な立ち位置にいるのが、アーサーとメイベルで、2人は最初からお互いのありのままを認め合っています。

戯曲の最後、メイベルがアーサーの父と「理想の夫」について話す台詞が、この物語のテーマをよく表しているなと思います。

キャヴァシャム卿
And if you don’t make this young lady an ideal husband, I’ll cut you off with a shilling.
(アーサーに向かって)もしお前がこのお嬢さんの理想の夫にならなかったら、勘当するからな。

メイベル
An ideal husband! Oh, I don’t think I should like that. It sounds like something in the next world.
理想の夫!私そんな人好きになれないと思います。なんだかあの世の人みたい。

キャヴァシャム卿
What do you want him to be then, dear?
だったらアーサーにどうなってほしいんだい?

メイベル
He can be what he chooses. All I want is to be . . . to be . . . oh! a real wife to him.
彼自身が思うままに。私の望みは、アーサーのありのままの妻になりたいということだけです。

星組公演『ザ・ジェントル・ライアー』公演情報・出演者

ミュージカル・コメディ
『ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~』
原作/オスカー・ワイルド
脚本・演出/田渕 大輔

公演期間:
2022年2月1日(火)~2月13日(日)@宝塚バウホール
2022年2月19日(土)~2月25日(金)@KAAT神奈川芸術劇場

出演者:
美稀千種(79期)
音波みのり、大輝真琴(91期)
紫りら、瀬央ゆりあ(95期)
綺城ひか理(97期)
澪乃桜季(98期)
小桜ほのか、天路そら(99期)
朱紫令真、煌えりせ(100期)
颯香凜(101期)
紅咲梨乃、咲城けい、鳳真斗愛、水乃ゆり(102期)
侑蘭粋、紘希柚葉、羽玲有華(103期)
稀惺かずと、詩ちづる、鳳花るりな、星影なな、彩夏こいき(105期)
乙華菜乃、愛花いと、飛翠真凜、咲園りさ(106期)