「ザ・ジェントル・ライアー」3つのゲームを考察③アーサー(瀬央ゆりあ)とガートルード(小桜ほのか)

宝塚星組

星組公演「ザ・ジェントル・ライアー」において、ストーリーの主題部分を担っているのが、アーサー(瀬央ゆりあ)とガートルード(小桜ほのか)の会話です。

物語の最後に登場するアーサーとガートルードの「ゲーム」は、これまで拠り所にしてきた自分の殻を破れるか、という勇気を賭けた自分自身との対決です。

そこに行きつくまでのストーリー展開や、ガートルードと夫ロバート(綺城ひか理)との関係性なども含めて、改めて感じたことを整理してみたいと思います。

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「ザ・ジェントル・ライアー」はアーサー(瀬央ゆりあ)とガートルード(小桜ほのか)の変化の物語

原作でも、ガートルードが「理想の夫」と信じていたロバートのスキャンダルをどう受け止め、どう変わっていくか、ということが物語の主題として描かれています。

その変化を助けるのがアーサー、という点は原作も宝塚版も共通しているのですが、原作でのアーサーは特にトラウマや悩みを抱えているわけではなく、自然体でメイベル(詩ちづる)にプロポーズできる人物です。

 

一方「ザ・ジェントル・ライアー」では、アーサーも「ローラ(紫りら)を本気で愛して傷ついた過去」「嘘というバリアを張って自分の本心や愛から逃げてしまう臆病さ」という問題を抱えています。

そのため、宝塚版ではアーサーとガートルードの2人が、自分の拠り所としていたもの(ガートルードは「理想」アーサーは「嘘」)を捨てて、愛のため真実に向き合えるか、というところが大きなテーマになっていると感じました。

ロバート(綺城ひか理)とガートルードは本質的には違いが大きい

劇中でロバートとガートルードは「理想の紳士」「理想のレディ」「理想の夫婦」と周りから見なされていますが、よく考えてみると2人の本質的な価値観というものは結構違うなと。

 

ガートルードの方は生まれてから一度も嘘を付いたことのないような人物で、正義や道徳に反しないことを何より大切にしています。そして正にそれを体現している(とガートルードは思っている)夫ロバートのことを「理想の夫」として尊敬しています。

 

一方ロバート自身は、実はそこまで堅物というわけではなく、それなりに世慣れした人物なんですよね。ストーリー展開の引き金となるロバートの過去の不正スキャンダルも、誰かに騙されたわけではなく、立身出世のためロバート自身の意思でやったものです。

宝塚版でははっきりとは描かれていませんでしたが、原作でのロバートは今でも自分が不正行為をしたこと自体は後悔しておらず、ローラに脅迫された時もまずお金を払って抑え込もうとしています。

 

ただロバートはガートルードを心から愛しているので、妻の描く「理想の夫」でありたいと常に思って行動してきた結果、「ロンドンで一番高潔な理想の紳士」と呼ばれるような存在になっていったのだろうと思います。

決して妻に尻に敷かれているとか無理をしているということではなく、ガートルードの描く人物像はロバートにとっても正しいものであり、理想の夫と思ってもらえることがロバート自身の幸せでもあった、というのが、ローラに脅迫される前までのチルターン夫妻の姿だったのかなと。

ロバートにとってのガートルードは「理想の妻」ではなく「完璧な女性」

ガートルードはロバートのことを「理想の夫」と言っていますが、ロバートはガートルードのことを「理想の妻」とは言っていないんですよね。

その代わりに「僕と違って完璧な人間」というようなことを言っています。話の流れとしては、自分のようにやましい過去などがなく、本当に清廉潔白な人、という意味ですが、広い意味でもロバートにとってガートルードは「完璧な女性」なのかなと。

 

この場合の完璧というのは「理想的」というのではなく、「パーフェクト」という感じに近くて、ガートルードはロバートにとって(何をしようとも)「パーフェクトに素晴らしくて愛している女性」なのかなと思いました。

 

ガートルードが生まれて初めて嘘をついたことが分かった時、ロバートは驚きつつとても嬉しそうに笑っていて、自分が嘘をつかれたことに対しての怒りみたいなものは全く見えないんですね。

 

ガートルードはロバートを「理想の夫」として愛していましたが、ロバートの方にはそんな理想像は存在していなくて、元からガートルードそのものを愛していたのかなと思います。

嘘をつく場面でさらに魅力的になる小桜ガートルード

ガートルードというキャラクターは、少し間違えると「融通が利かなくて面倒くさい女」に見えてしまうとても難しい役どころだと思うのですが、小桜ほのか演じるガートルードは、聡明でしっかり者で華やかで、ロバートだけでなくアーサーも惹かれたというのが納得の魅力的な女性になっていました。

 

私が小桜ガートルードで一番見事だなと思ったのが、手紙のことでロバートに嘘をつく場面です。ロバートの愛を失わないために、しどろもどろになりながら必死で生まれて初めての嘘をついているガートルードの姿が、ものすごく可愛らしかったんですね。

ガートルードの「理想のレディ」という殻が剥がれた時、中から出てきた、自分自身でも知らなかったありのままの姿が、実はさらに魅力的だった、という風に見えたのが素晴らしいなと。

 

ガートルードがロバートのなぜなぜ攻撃に一生懸命に嘘を重ねていき、最後には「嘘の達人」アーサーも驚くような上手い嘘をついてしまうところが、なんとも面白かったなと思います。

ロバートと和解した時点でのガートルードは理想のすり替えをしているだけ

無事に手紙の誤解も解けたロバート(綺城ひか理)とガートルード(小桜ほのか)は仲直りをし、「僕が理想の夫でなくなっても愛してくれるかい」というロバートに対し、ガートルードは「あなたは今までもこれからも私の理想の夫よ」と返して一見ハッピーエンドのようになります。

しかしガートルードはロバートのことをまだ「理想の夫」と呼んでいます。この時点でのガートルードはまだ「理想」の殻を破れておらず、その定義をすり替えただけなのだろうと思います。

つまり「気高くて誠実で清廉潔白な人」という元々の理想像は壊れてしまったものの、「ローラの脅しに屈せず信念を貫き、政界を引退して過去の責任をきちんと取る人物」という新たな理想像をロバートに見出して、「理想の夫」だと言ってしまっているのだと思います。

アーサー(瀬央ゆりあ)はそれに気づいているので、2人が仲直りをしてめでたしめでたし、となっている中でも一人「それは違うんだけどな」「どうしたものか」という表情をしています。

 

そんな中、アーサーの父キャヴァシャム卿(美稀千種)が、ロバートが大臣に選ばれた、という知らせを持ってきます。政界を引退する覚悟を固めていたロバートでしたが、自分が大臣に選ばれたと聞いて思わず喜んでしまうんですね。

元々ロバートが想定していたのは、

ローラ(紫りら)の脅迫には屈せずアルゼンチン運河計画が詐欺だと告発する

その報復としてローラがロバートの過去の不正の証拠を世間に公表する

それにより自分は議員辞職をし政界を引退しなければならない立場に追い込まれるだろう

という流れです。

 

アーサーがロバートの不正の証拠をローラから取り返したので、ロバートの過去のスキャンダルが世間に暴かれることはなくなりました。そのためロバートは政界を引退しなくても大丈夫になったわけです。

 

しかしガートルードにとって「過去の不正を隠し通して出世する」ような人物は、「理想の夫」とは相容れないものです。ロバートは大臣の話を聞いて一瞬喜ぶものの、ガートルードの表情が曇っているのを見て、すぐにそれを悟ります。彼にとって一番大切なのはガートルードの愛なので、彼女の「理想の夫」であるために、大臣の話は辞退して引退すると申し出るわけです。

 

ガートルードは「理想」アーサーは「嘘」を捨てる勇気を出せるかというゲーム

そんなガートルードに対し、アーサーは一緒に「ゲーム」をすることを提案します。ゲームの相手は自分自身で、試すのは自分の勇気です。

今までの人生で自分が拠り所にしてきたもの、ガートルードにとっては「理想」、アーサーは「嘘」を捨て去る勇気を出せるか、というゲームです。

 

ここでようやくガートルードはロバートに理想像を見るのを止め、愛する彼の将来を守るために、このまま大臣の話を受けるべきだとロバートの背中を押します。ガートルードにとって、夫の過去の不正を黙認しながら生きていくことは、これまでの人生観が全て覆るようなとても勇気のいる決断だったと思います。

 

ガートルードがそんな大きな勇気を見せたので、アーサーもようやく、嘘で自分の本心から逃げることを止め、真正面からメイベルに向き合う勇気を出します。

人と違うことにこだわり、「月並みな愛は欲しくない」とうそぶいていたアーサーが、「僕らしくない」と言いながらも、胸に赤いバラを挿し片膝をついて、これ以上ない程の「月並みな」王道のプロポーズをして愛を手に入れる、というエンディングがなんとも素敵に描かれていました。

 

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