宝塚星組「柳生忍法帖」の腹落ち度が高まる?歴史背景の予備知識

宝塚星組

宝塚星組公演「柳生忍法帖」を観劇してきました。

山田風太郎の原作は一切読まずに観たのですが、公式ウェブサイトにある人物相関図をざっくり把握していれば、物語にはついていけるかなと。

公演解説 | 星組公演 『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』 | 宝塚歌劇公式ホームページ
星組公演 『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』の公演解説をご紹介します。

 

一方で「柳生忍法帖」の舞台となっている歴史背景を自分の中でもう少し整理していけば、ストーリー展開の腹落ち感が高まったな、と感じた部分もあったので、柳生忍法帖の時代背景や1度ではパッと理解しにくい用語などをいくつか整理してみました。

 

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江戸幕府は絶対的存在!最盛期の幕府に歯向かうなんてありえない

柳生忍法帖の舞台となっているのは、江戸時代初期、三代将軍徳川家光の時代です。当時の江戸幕府は260年余り続く中でも勢いのある時期で、どんどん幕府の支配体制が強固になっていった時代と言われています。

 

その一方で、江戸時代中期のように幕府が文治主義で国を治める成熟段階までは至っておらず、三代家光の時代までの徳川幕府は武断主義、つまり何かあれば容赦なく武力で制圧するというスタイルの統治でした。

 

まだ戦国時代からの戦いの火種がくすぶっている部分もあり、おかしな動きをすれば幕府の圧倒的な武力でやられ、家も簡単に取り潰されるというのが徳川家光の時代の武士たちが置かれた状況だったと言えます。

 

私自身の「柳生忍法帖」観劇時の反省として、この江戸幕府=絶対的に強い、という時代認識がちょっと欠けていたなと。

どうしても私たちは江戸幕府が後に滅ぶことも知っていますし、幕末を舞台にした作品ですっかり弱体化した「弱い幕府、倒されるべき幕府」を見ることも多いので、自分の中で無意識にそんなイメージの刷り込みがあった気がします。

 

何となくそのイメージで柳生忍法帖を観てしまうと、柳生十兵衛(礼真琴)に仇討ちを依頼しておきながら幕府に配慮して諦めさせようとする沢庵和尚(天寿光希)や、大悪党で強敵のはずなのに千姫相手にあっさり引き下がる会津七本槍(瀬央ゆりあ、漣レイラ、ひろ香祐、綺城ひか理、天華えま、極美慎、碧海さりお)が、小さい奴だなーという風に見えてしまいがちかなと。

 

とにかく柳生忍法帖に出てくる江戸幕府は物凄く強大で絶対的な存在なのだ、という前提が重要なんですね。

その幕府に歯向かうとなれば、賢人である沢庵和尚も、悪行三昧の七本槍もさすがにひるむのは当然で、芦名銅伯(愛月ひかる)に至っては、幕府の重要人物である天海大僧正(愛月ひかる・二役)を盾に使うという最凶のカードを切ってきます。

 

その前提があるからこそ、唯一「幕府なんてどうでもいい!」と言い放てる柳生十兵衛という主人公が引き立つわけですよね。

三代将軍徳川家光の実姉かつ豊臣秀頼の元妻という千姫の立ち位置

「柳生忍法帖」観劇後にもう一つ整理したいなと思ったのが、当時の江戸幕府における千姫(白妙なつ)の存在です。

 

千姫は二代将軍徳川秀忠の娘であり、時の三代将軍徳川家光の実姉です。

千姫と家光はこの時代にしては珍しく?父親も母親も同じ姉弟で、母親は秀忠の正室(正確には継室)で織田信長の姪でもある江です。

時の将軍の実姉で、しかも先代の将軍の正妻の娘でもある千姫は、徳川幕府のド真ん中にいる人物と言えます。

 

その一方で、千姫は豊臣側と強い繋がりのある人物でもあります。

千姫は政略結婚で豊臣秀吉の息子・豊臣秀頼に嫁ぎますが、大坂の陣で豊臣家は徳川家に敗れ滅亡します。

秀頼と千姫は仲の良い夫婦だったと言われていて、大阪城から救出され徳川家に戻された千姫は、夫・秀頼とその母淀殿(千姫の伯母でもある)の助命を幕府に嘆願しますが、それは聞き入れられず二人は自害します。

ただ豊臣秀頼と側室の娘で豊臣家滅亡当時7歳だった天秀尼(有沙瞳)だけは、千姫が自分の養女にして東慶寺に入れることで命を助けられています。

 

「柳生忍法帖」劇中で七本槍が東慶寺を襲った際、

「東慶寺は女人救済の縁切り寺、古より守られてきた寺の掟がある」
→七本槍「そんな掟、破ってやる」

 

「天秀尼は豊臣秀頼の娘、会津の加藤家は豊臣家に恩のある家柄のはず」
→七本槍「昔の恩など知らん。ここにいる尼たちも連れ去るか」

 

千姫登場で、東慶寺が徳川将軍の姉・千姫の肝入り案件と知る
→七本槍「まずい!引き揚げるぞ!」

 

と、物事の道理や豊臣家の名前などは全く意に介さない七本槍も、徳川将軍の姉・千姫には一瞬でお手上げ状態です。

七本槍の反応を見ると、天樹院という千姫の出家後の呼び名ではピンと来ていないようですが、豊臣秀頼の元妻=将軍家光の姉=千姫、というのはよく知られていたようです。

ちなみに、目の前にいるのが千姫であるとわかって、七本槍のリーダー格である漆戸虹七郎(瀬央ゆりあ)や司馬一眼房(ひろ香祐)たちは「これはまずい」と表情が変わり、特に平賀孫兵衛(天華えま)はかなりオドオドした様子になるのですが、香炉銀四郎(極美慎)だけは千姫自体のことも全くわかっていない様子なのが面白いです。

 

幕府の威光がある千姫には手が出せない七本槍は、逆襲として「千姫の評判落としちゃおう作戦」を始めます。

千姫に悪評が立ち幕府から切り捨てられれば、堀一族の女たちをどうしようが、何の障害も無くなるというわけです。

 

実際に江戸時代には「千姫が夜な夜な男を屋敷に連れ込んでは殺す」というような民間伝承(史実ではない)も存在します。

 

豊臣家とも繋がりがあり、20代で2度も未亡人になった千姫は、徳川将軍家の姉という絶対的な威光がある一方で、何かと噂の立てられやすい不安定な立場も持ち合わせていたということかと思います。

 

天海大僧正が行う予定の天台相承(てんだいそうじょう)とは?

劇中で柳生十兵衛たちの仇討ちに、ある意味最大の障壁として立ちはだかるのが、天海大僧正(てんかいだいそうじょう)の存在です。

 

大僧正(だいそうじょう)は僧の中でも最高位で、実在の人物である天海大僧正は、徳川家康・秀忠・家光と3代に渡り徳川将軍家の信頼厚かった人物と言われています。

実際に108歳まで生きたとされる天海大僧正は、当時としてはあまりに長寿で常人離れしていたため、生き延びた明智光秀説なども出るほどでした。

 

この天海大僧正が近々、将軍家光に天台相承(てんだいそうじょう)を行う予定だというのが、沢庵和尚が十兵衛に仇討ちを諦めるよう説得する理由となっています。

 

天台相承とは、そのままの意味だと「天台宗の教えを、師から弟子に受け継ぐこと」です。

相承には色々と儀式があり、本尊や教義・戒律の他、奥義や宝などあらゆるものが相続されるとされています。(仏教に詳しくないので、表現が正確ではないかもしれません)

 

劇中で沢庵和尚は、芦名銅伯から「将軍の導師(=天海大僧正)が、将軍への天台相承を行わないまま命を落としたらどうなるか?」と脅され、そんなことになれば将軍家の権威は地に落ちる、と意気消沈しています。

 

「柳生忍法帖」劇中においては、天海大僧正が時の将軍に天台相承を行うことは、仏教的な意義に加えて徳川将軍家の正統性や権威を保持する上で不可欠なもの、と認識しておけば良いのかなと思います。

 

1度文字で確認するとスッキリ!?な柳生忍法帖用語集

大野拓史作品あるあるですが、柳生忍法帖でも現代では使わないような言い回しや固有名詞が出てくるので、観ている最中にはなかなか漢字変換が追い付かなかったりします。

 

一度文字で確認すればスッキリわかるものも多いので、ルサンク掲載の脚本の力も借りていくつか整理しておきたいと思います。

 

尋常に(じんじょうに)

普通に、潔く、正々堂々と

 

柳生忍法帖の中では「尋常に立ち会う」「尋常に相手になる」といった形で出てきます。

時代劇をよく見ている方にはおなじみの表現かもしれませんが、現代では「尋常じゃない」と否定形で使うことが多いので、観ている最中少し漢字変換に戸惑いました。

 

検校(けんぎょう)

盲人の組織の最上位の役職

 

千姫に関する七本槍の陰謀を暴くため柳生十兵衛とお圭(音波みのり)が成り済ますのが、「湯島の検校の娘・お園」と「検校の娘婿になる予定の三沢玄達」です。

 

検校(けんぎょう)という言葉に馴染みが無かったのですが、盲人の自治組織の中で最上位に位置する役職で、江戸時代には小規模の大名と同等程度の社会的地位を持っていたともされています。

 

七本槍が二人を捕えた際に、男の方が盲目(実際には隻眼の十兵衛が眼帯を外して全盲の振りをしている)であることに気づいて「だから検校の娘婿になったのか」と言うわけですね。ここで盲目のことを「めしい」と言っているのも聞き慣れないかもしれません。

 

ちなみに観劇時には、十兵衛が扮しているのが「石野玄達」という人物と思って聞いていたのですが、ルサンク掲載の台本によるとそのセリフは「医師の玄達」で、彼のフルネームは三沢玄達と記載されていました。

 

その他、劇中に耳で聞くだけでは一瞬漢字変換に戸惑うかも?と思った単語をいくつか並べておきます。(随時追加します)

愚僧(ぐそう)沢庵和尚の一人称として出てきます

愚息(ぐそく)柳生十兵衛のことを父・柳生宗矩(朝水りょう)が指して使います

禅師(ぜんじ)芦名銅伯や柳生宗矩は沢庵和尚のことを禅師と呼んでいます(ちなみに柳生十兵衛や千姫は「和尚」と呼びかけています)

身共(みども)柳生十兵衛や漆戸虹七郎が一人称として使うことがあります

蠱惑する(こわくする)人の心を、あやしい魅力でまどわすこと。たぶらかすこと
漆戸虹七郎が香を使った呪術について説明する時に使っています

大身(たいしん)身分が高いこと。加藤明成(輝咲玲央)に草履を取らせる時に、沢庵和尚が柳生宗矩のことを「大身の身」と紹介しています

高札(こうさつ)立て札。法令などを木の板に書き、人々に周知するように掲示したもの

廃嫡(はいちゃく)その家の推定相続人の相続権を失わせること。柳生十兵衛は自分のことを、柳生家から「勘当された」「廃嫡された」と2通りの言い方で話しています。

 

個人的に予備知識として持っておくと「柳生忍法帖」のストーリー展開の腹落ち感が高まるかな?と感じたポイントをまとめてみました。

これらを踏まえて改めて「柳生忍法帖」を観るとどう感じるのか、次回の観劇が楽しみです!

宝塚歌劇団・礼 真琴、舞空 瞳、愛月ひかるの「星組 大劇場「柳生忍法帖」 (ライブ)」をiTunesで
"ゆらの童歌 (ライブ)"、"童歌~七本槍の歌 (ライブ)"、"柳生十兵衛見参 (ライブ)" とその他を含む、アルバム「星組 大劇場「柳生忍法帖」 (ライブ)」の曲をプレビュー、購入、ダウンロード。 アルバムを¥1,528で購入。 1曲¥204から。
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