「カムフロムアウェイ」日本初演の感想と各キャストの個人的見どころ

ミュージカル

『カムフロムアウェイ』日本初演が開幕しました!

このキャスト陣で上演されると発表された時からとても楽しみにしていて、早速観劇してきたのですが、

感想を一言で表すなら

「永遠に目が足りない」

たぶん何度見ても全ては見切れない位に濃い舞台でした。

 

改めてこの全員アンサンブルという作品を、日本ミュージカル界の超メインどころのキャストを揃えまくって上演できたことの奇跡を実感しました。

事前にほとんど情報を入れないようにして観劇したので、見逃したところ、理解が間違っているところも多々あると思いますが、12人のキャストそれぞれで印象に残っている役と、個人的見どころを独断でまとめてみました。

(ここで書いた以外にも、全員もっとたくさんの役を兼ねて演じています!)

ブロードウェイ版楽曲の視聴はこちらから↓

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安蘭けい:保守的なテキサス女性&強烈な店員のおばちゃん

【乗客】ダイアン
【島民】クリスタル(Tim Hortonsの店員)、ブレンダ(ゲイタウンのバーの店員)

メインキャスト12人の中でも、メインの役ともうひとつサブの役が大きめの人と、メインの役が中心で他の役は細々というパターンの人がいるのですが、安蘭けいは後者でほぼダイアンの印象でした。

ダイアンはアメリカ・テキサス出身で、息子を持つバツイチ女性。自己主張は控えめなおとなしい人柄で、飛行機に閉じ込められて他の乗客たちが騒いでいる時にも、一人ひっそりとしています。

同じ飛行機に乗り合わせたイギリス人のニック(石川禅)と徐々に良い感じになり、また島の空気に触れてどんどん開放的になっていく姿がチャーミングだなと。何歳になっても、新しい自分に出会えるんだという勇気をもらえるようなキャラクターです。

追記で他キャストについて、その役者自身の特性が役柄に滲み出ることで更に素晴らしくなっている、と書いたのですが、安蘭けいのダイアンについてはその逆で、本人のサバサバした姉御っぽい普段の雰囲気が、役に全く出てこないのがプロフェッショナルだなと。(公演後半ではダイアンが酔っ払うシーンがどんどんノリノリになっていて、普段の雰囲気が少し出ていたのも良かったです)

その他の役で強烈に印象に残っているのは、最初と最後に登場するTim Hortonsのおばちゃん店員(クリスタル)です。ティム・ホートンズはカナダのどこにでもあるドーナツチェーン店で、この物語の中でも島民の溜まり場になっています。

安蘭けい演じる店員は、この人ずっとここで働いているんだろうなということが良くわかる「雑さ」で、でも常連客の注文は皆覚えていて(町長は「ペプシ!」)多分いざという時には結構優しいんだろうな、という「田舎のあるある」を体現したようなおばちゃんでした。

石川禅:仕事人間のイギリス人&妻の尻に敷かれる管制官

【乗客】ニック
【島民】ダグ、アップルトンでボブ(加藤和樹)と接する住民

メインのニックはイギリス人の石油技師で、世界各地を出張で飛び回っている仕事人間です。

飛行機に閉じ込められた他の乗客たちが半狂乱で家族や大切な人たちに連絡を取ろうとする中でも、ニックは仕事をしようする位、仕事一筋で生きてきたことが分かるのですが、飛行機を降りて会社に電話を入れてみると(たぶん)誰も大して自分のことを気にしていなかった、というのが印象的でした。

ニックは独身で女性付き合いも不器用ながら、ダイアン(安蘭けい)と徐々に惹かれあっていきます。登場人物の中でも年齢が高めの方だと思われるニックとダイアンが、この物語の恋愛パート担当というのがまた可愛らしくて良かったです。

 

もうひとつのダグも結構出番の多い役で、こちらは島の空港の管制官です。ボニー(シルビア・グラブ)の夫でもあり、完全に妻の尻に敷かれてオロオロしている姿が見どころかなと。

 

浦井健治:成功者の会社社長&バスの運転手&ブッシュ大統領

【乗客】ケビンT
【島民】ガース
【その他】ブッシュ大統領(演説)、動物たちの声

ケビンTはロサンゼルスの環境エネルギー会社経営者。ゲイで恋人は秘書のケビンJ(田代万里生)。

浦井健治演じるケビンTの方が社長で立場が上のはずなのに、秘書のケビンJの方が強気で、ケビンTは割と大らかで従わされがちという関係性です。

追記:初回に観た時にはケビンT(浦井健治)の言動を追い切れていなかったのですが、ケビンTとダイアン(安蘭けい)が、乗客の中で最初に、島で過ごす時間を「新しい自分に出会うチャンスかもしれない」とポジティブに捉えはじめるんですね。

この作品では各登場人物の描写に割ける時間が限定的なので、観客が受け取る人物像には、役者を通して滲み出てくるものが大きく影響するように感じたのですが、このケビンTに関しては特に演者・浦井健治の持つ絶対的な善性のようなものが凄く上手く作用しているなと。

ケビンTは肩書からして相当な成功者のはずですが、驕ったところが無くオープンマインドで気持ちの良い人物に見えます。だからこそ教会での「Prayer」の歌い出しが心に響くのですが、それも演者・浦井健治から滲み出る「善性」の力が大きい気がします。

ガースの方は島のスクールバス運転手で、現在ストライキ中。バスを動かせというクロード町長(橋本さとし)と度々言い争っています。

個人的に浦井健治のガース役の再現度が凄い!とテンションがあがりました。悪い人でないのはわかるけれど、ぶっきらぼうでダルそうで、だぼっとした服を着て大柄で猫背の田舎の中年ドライバー、というまさに(私が住んでいたアメリカでも)こういう人いた!となる人物造形なんです。

そんな彼が言葉の通じないアフリカ系の乗客(加藤和樹、森公美子)に対して意思疎通を図るシーンは、とても心が温まりました。

 

他にもワンシーンですが浦井健治がブッシュ大統領を演じる場面もあるので要注目です!

加藤和樹:ニューヨーカー&ワンポイントで強烈な印象のカメレオン俳優ぶり

【乗客】ボブ、ムフムザ、ブリストル機長

メインのボブは「筋金入りのニューヨーカー」と紹介にあったので、エリートビジネスマン系かと思っていたのですが、そうではなくてNYと大きく描かれたTシャツの上にチェックのシャツを着ている、「RENT」のマーク系ニューヨーカーでした。

ボブは「都会から来た乗客」と「小さな島の島民たち」の間の価値観や人との距離感の違いを伝えるキャラクターで、ボブが島の人たちの「当たり前の善意」に触れて警戒心が解けていく様子にほっこりさせられます。

ボブは男性の登場人物で一番若いと思われるキャラクターで、(最近どちらかというと兄貴ポジションの加藤和樹が多かった気がしたので)若者らしく素直に目の前の状況に反応して行動!というような役どころが新鮮でした。

 

他のメインキャラクターと比べると、ボブは素直な若者でそこまでアクが強くないのですが、そのぶん他の役での加藤和樹のインパクトの残し方が凄かったです。

 

言葉の通じないアフリカ系乗客のムフムザ役ではモリクミさんとしっくり夫婦に見え、革ジャン機長は一瞬でアネット(濱田めぐみ)をメロメロにし、最終盤に一言だけ登場するあるキャラクターでも強烈な印象を与え…と、どの役も完全に別人かつ凄まじくハマっていて、こんなにもカメレオン俳優だったのか!と新たな一面を見た気がしました。

咲妃みゆ:新人レポーター&客室乗務員で若さとひたむきさ担当

【島民】ジャニス
【乗客】客室乗務員、パーティーガール
【その他】動物たちの声

咲妃みゆは今回のキャストの中で1人年齢が若いこともあり、どこにいても華があってとても目立ちます。役どころとしても若さやひたむきさ担当かなと。とはいえ元々芝居の上手い人なので、目立つけれど浮かないという絶妙なラインで自分の役割を果たしているなと感じました。

 

メインのジャニスは島のローカルテレビ局の新人リポーターで、まさに事件の起きた9月11日に入社したばかり。やる気に満ち溢れ精力的に島の大騒動を取材しますが、その中で色々な人の想いや苦悩に触れていきます。

 

他の役で比重が大きいのはビバリー機長(濱田めぐみ)の操縦する飛行機の客室乗務員役。緊急事態に騒ぎ出す乗客たちを何とか制御しようと、あの手この手で悪戦苦闘しています。

2役ともナレーションのようにばーっと話すシーンが結構あるのですが、声が良くていつでも台詞が聴き取りやすいのが本当に素晴らしいなと。

他にも個性的なウォルマート店員や、こんな姿を見て良いのだろうか?と戸惑ってしまうセクシーシーン(一瞬ですが)などたくさん見どころがあります。

シルビア・グラブ:肝っ玉母ちゃんの動物愛護家

【島民】ボニー
【乗客】マーサ

シルビア・グラブもほぼメインのボニー役で、他は細かい役で色々な役割を担っていたという印象でした。

ボニーは三児の母で、ダグ(石川禅)の妻。夫を完全に尻に敷いている肝っ玉母ちゃんという雰囲気です。ボニーは島の動物愛護協会会長でもあり、乗客よりも飛行機に取り残されている動物のことを心配し、動物たちを助けに単身貨物室へ乗り込みます。ちょうど日本でも関心が高まっているタイミングで、飛行機と動物というテーマに立ち向かう役どころです。

ボニーは動物たちと対話していたり、電話の相手と話していたり、と一人芝居の多いポジションなのですが、それを自然なトーンで成り立たせているのがさすがだなと。

その他の役でお気に入りを思い出したので追記。各国テレビ局の中継シーンで一瞬だけ登場するアルジャジーラ(中東TV局)のリポーター役。島民のボニー役に合わせてほぼノーメイクかつラフな服装にも関わらず、「Al Jazeera!」とひとこと言うだけで、タイトなスーツを着てアイメイクばっちりのアラブ系の女性リポーターが「見える」んです。その瞬間に何だかとても、舞台って良いなぁと思いました。

田代万里生:皮肉屋の秘書&警戒対象になってしまうイスラム系料理人

【乗客】ケビンJ、アリ
【島民】ドワイト(空港職員)

田代万里生のメインキャラクターはケビンJとなっていますが、サブのアリの方が物語の重要なパーツという気もする大きな役です。(他の国での上演記録を見ると、ケビンJとアリが並列でメインキャラクターとして記載されています)

 

ケビンJはケビンT(浦井健治)の秘書かつ恋人のゲイです。ケビンJはいわゆる「意識高い系」で、周りの人を見下しがちな皮肉屋。神経質で、島の人々や文化にも馴染もうとせず、恋人のケビンTとも溝ができてきます。

追記:最初に観た時には、ケビンJが「早くここから去りたい」一辺倒で、島の人にも恋人のケビンTの提案にも拒絶ばかりなのは、そういう性格だからなのかと思っていたのですが、改めて観てみるとかなり初期の段階で「帰りたいのは恋人と仕事があるLAではなく、親やきょうだいのいるニューヨークだ」と気づいてしまって思いが募っていったからなんだなと。

同じアメリカ人でも、ニューヨークに住んでいた人と、そうでない人では、9.11の映像を見た時の衝撃度は全く違ったと思います。乗客が初めてあの映像を見る場面で、ケビンJが今にも泣きだしそうな追い詰められた表情をしていたのが印象的で。そこで彼が受けたショックの大きさを、西海岸側の人間であるケビンT(浦井健治)が十分に汲み取るのは多分難しかったんだろうなと。だから外に出掛けて積極的に交流し始めるケビンTに対して、ケビンJの心がどんどん閉じていってしまったのかなと感じました。

ケビンJの印象は、家族に電話をするシーンに注目するかしないかで大きく変わると思っていて(私自身1回目はそこを追えていなかったので、ただの皮肉屋としか捉えられていませんでした)口ぶりから年の離れた妹と話している感じなのですが「お前本当に嫌なヤツだな!いやその声が聞きたかったんだ…」というようなセリフがあります。あぁ電話口で、小さな妹も何か皮肉っぽいことを言っているんだなと。

ケビンJの家族はニューヨーク(ブルックリン)に住んでいて、事件で凄まじいショックを受けたと思われる中で、小さな妹が兄に泣きつくのではなく皮肉を飛ばすような家族なんだということが分かります。ケビンJもそういう環境で育ってきたわけで、皮肉なジョークを言うことは彼にとって小さい頃からのコミュニケーションの手段であり、それで自分を安心させている部分もあるのかなと。

一方のアリはエジプト人で、有名ホテルの料理長。しっかりとした立場のある人物にもかかわらず、イスラム教徒という理由で厳しい尋問や身体検査などを受けさせられ、島に来てからもテロと関わりがあるのではないか、と周りから警戒されてしまいます。

田代万里生は、姿勢や歩き方、話し方のテンポや抑揚などで、本人としてはこれが自然な状態なのに周りからは異質に見えてしまう、というアリの立ち位置をとても良く表現しているなと。

 

ケビンJもアリもどちらも乗客側で、入れ替わり登場しますが、アリ役の時には特徴的な帽子を被るので、役の見分けはしやすいと思います。

橋本さとし:陽気な町長といろいろな町長

【島民】クロード、アップルトンの町長、ガンボの町長、ルイスポートの町長、ユダヤ人の島民

橋本さとしの役どころはとにかく町長!です。

クロードは島のメイン舞台となる町ガンダーの町長。基本的に陽気で、町の人口と同じ位の人数の乗客を受け入れなくてはならない非常事態に四苦八苦しながらも、深刻になり過ぎない町長の人柄が、この作品全体のトーンを決めている部分があるなと。

この町長の深刻になり過ぎない軽妙さ、というのも演者・橋本さとしの特性が滲み出ることによってはじめて完成している気がして、他の人が演じたらこうはならないだろうな、と。2回目の観劇で改めてそのハマり役ぶりにニヤニヤしてしまいました。

いろいろな町長とは一体?という感じですが、観ればわかります。中でもアップルトンの町長は、ボブ(加藤和樹)の変化に大きく関わる役どころです。

 

濱田めぐみ:キャリアウーマンの女性機長&対照的な妄想女子

【乗客】ビバリー
【島民】アネット

ビバリーはアメリカン航空初の女性機長。実在の人物Beverley Bass(1952年生まれで現在71歳)の半生をほぼ忠実に再現したキャラクターです。

9.11発生時、ビバリーはパリからダラス行きの航空機を操縦中で、ニューファンドランド島に不時着することになります。何よりも空と飛行機を愛してきたビバリーにとって、それがテロの凶器として使われたことは衝撃的な出来事でした。

「カムフロムアウェイ」はアンサンブルミュージカルなので、楽曲もコーラスがメインのものが大部分です。その中でビバリーには「Me and the Sky」というソロ曲があり、ビバリーの半生と飛行機への想いが歌で綴られます。

濱田めぐみのビバリーは、先駆者として道を切り開いてきたキャリアウーマンというだけでなく、家族を持ち公私ともに地に足を付けてしっかり生きてきた女性、という雰囲気が良く出ているなと。

 

うって変わってもうひとつのアネット役は、頼りなくて惚れっぽい妄想女子です(年齢関係なく女子と呼びたくなる雰囲気なんです)

ビューラ(柚希礼音)と一緒に、小学校に寝泊まりすることになった乗客たちを世話しますが、しっかり者のビューラとは正反対のタイプで、革ジャン姿のイケイケ系機長(加藤和樹)に惚れて妄想を繰り広げたり…と、ビバリー役との振れ幅が大いに楽しめる役どころです。

ビバリーはもちろん、2回目の観劇では漫画のキャラクターかのようなアネットの可愛らしさがツボに入って最高!となりました。ビバリー役の時はあんなに凛々しかったのに、アネット役の時は本当にキュートで声も仕草も全く違っていて、濱田めぐみの役者力に改めて感服です。

ブリストル機長(加藤和樹)のウインクも、マイケルズ先生(吉原光夫)のスパニッシュショーも、心臓専門医ズの白衣ダンスも、全てアネットの妄想のお陰で客席の私たちは目にすることができているわけで、アネットの妄想力様様ですね!

森公美子:イメージとは異なるシリアスで抑えた役どころ

【乗客】ハンナ、ムフムザの妻、パーティーガール
【島民】バスの運転手

明るい、元気、陽気といったご本人のイメージに反して、今回の役どころはシリアス担当で意外性がありました。

 

ハンナはマンハッタンで働く消防士の母親で、安否のわからない息子と連絡が取れることをひたすら待ち続けています。その中で同じく消防士の息子を持つ島民のビューラ(柚希礼音)に支えられ、友情を育んでいきます。

 

ムフムザ(加藤和樹)の妻役も、言葉が通じない異国でこれからどうなってしまうのかという不安が全面に出ている役どころで、モリクミさんのパブリックイメージとは異なる抑えた演技が印象的でした。

とはいえ、パーティーガールで弾けた姿も見られるのでお楽しみに!

バスの運転手役のところも、島民ならではのなんとも言えない大らかさと気の抜けた感じが良い味を出していてお気に入りです。メインのハンナ役がずっとシリアス寄りなので、ここで本来?の「陽」の姿が見られてなんだかホッとします。

柚希礼音:登場人物イチ懐が深い関西弁の人情派

【島民】ビューラ
【乗客】ドローレス

ビューラの肩書は公式サイトでは「ガンダー・レジオン(在郷軍人会)会長」となっていますが、劇中ではガンダーの小学校の教員のようにみえます。急遽700人の乗客の待機場所になった小学校で、世話役リーダーとして大活躍します。

国籍も境遇も違う人間が700人も集まれば色々なトラブルが起きるのは当然で、ビューラの器の大きさと対応力が無ければ、この小学校は崩壊していただろうなと思わせる人物です。

ビューラは大らかで何が起きてもギスギスせず、自分と同じく消防士の息子を持つハンナ(森公美子)やイスラム教徒という理由で周りから警戒されるアリ(田代万里生)など、辛い境遇の乗客にも寄り添って行動できる懐の深い人物です。なぜか時々関西弁になるのも、ビューラの人情味を表す要素なのかなと。

ビューラはかなり成熟した大人かつハンナと同世代の息子を持つ人物でもあるので、ここに女性陣の中で下から2番目の年齢の柚希礼音をあてるというのは、改めて観ると結構チャレンジングな配役だったなと思いました。結果として柚希礼音の持つスケール感や伸び伸びとした持ち味が上手くハマって、老若男女皆を等しく照らす太陽のようなビューラになっていてとても良かったです。

そんな柚希礼音が乗客側で演じるドローレスは、閉所恐怖症で、飛行機に閉じ込められたとわかると真っ先にパニックになって騒ぎ出す人物。濱田めぐみ同様、こちらもメインキャラクターとのギャップを楽しめる役どころです。

ドローレスが映画「タイタニック」の主題歌を歌い出すシーンがあるんですが、実際のタイタニック号がニューファンドランド島の沖合に沈んでいることに掛けたネタなんですね!

吉原光夫:存在感抜群の警察官&ユダヤ教のラビ

【島民】オズ、マイケルズ先生、バスの運転手、マッティ(ゲイタウンのバーオーナー)
【乗客】ユダヤ教のラビ、心臓専門医のリーダー

オズは2名しかいないガンダー警察署の巡査で、普段はスピード違反の車を捕まえること位しか腕の見せ所が無い、のんびりした田舎の警官業をやっている人物です。

見るからにコワモテの吉原光夫警官が、女性陣にパシらされて何度もShoppers(カナダのドラッグストアチェーン)へ行くシーンがとても愉快でした。

乗客側として存在感が強かったのはユダヤ教のラビです。乗客として島に来たものの、対応する食事もない状況の中、ある島民の打ち明け話を聞くことになります。

長髪にヒゲという今回のビジュアルが、他の役の時にはワイルドさを演出するものになっているのに、このラビ役の時はそれが聖職者という俗世から離れた存在を演出するものに見えるんです。ラビ役の時だけスッと俗っぽいものが抜けて見える芝居力が本当に凄いなと。

他にも突然スペイン語でショータイムを始める体育のマイケルズ先生も強烈で必見!です。

出演者の年齢と配役の妙

日本初演版を見た後にブロードウェイ版を見ると、各キャラクターを演じている役者の年齢バランスが、日本版とは結構違って見えるな、と。

日本版の出演者を年齢順に並べてみると

森公美子→石川禅→橋本さとし→安蘭けい→濱田めぐみ→シルビア・グラブ→吉原光夫→柚希礼音→浦井健治→田代万里生→加藤和樹→咲妃みゆ

になります。

「カムフロムアウェイ」の登場人物の年齢設定について、アメリカの舞台エージェンシーのサイトなどに掲載されているものを参照すると

(それぞれ実在のモデルがいるのは知っているのですが、あくまで舞台上のキャラクターの話として考えています)

50~60歳
ビバリー(濱田めぐみ)
ダイアン(安蘭けい)
ニック(石川禅)

40~60歳
クロード(橋本さとし)
ビューラ(柚希礼音)
アネット(濱田めぐみ)
ハンナ(森公美子)

30~50歳
オズ(吉原光夫)
ケビンT(浦井健治)
ケビンJ(田代万里生)

30~40歳
ボニー(シルビア・グラブ)
ダグ(石川禅)
ガース(浦井健治)

20~40歳
ボブ(加藤和樹)

20~30歳
ジャニス(咲妃みゆ)

となっています。

日本初演の12人の実年齢とキャラクターの世代が逆転しているところもあるのですが、今回本当に全員ハマり役で、観劇後にはそれぞれこの役でしかあり得なかったなと実感しました。

劇中で語られる子どもの話からして、ボニー(シルビア・グラブ)とダグ(石川禅)夫婦は、ハンナ(森公美子)やビューラ(柚希礼音)より下の世代なんだろうと思っていたのですが、やはりそのようです。

森公美子と柚希礼音は実年齢がちょうど20歳違うにもかかわらず、劇中では違和感なく同世代の息子を持つ母親同士に見えるのが、役者と演劇の力だなと。

上で中年と書いたバス運転手のガース(浦井健治)が思ったより若かったです(笑)

ボブ(加藤和樹)は言動からすると20代前半の若者だろうなという感じがしますが、同時にハンナ役の役者(森公美子)と夫婦役も演じる必要があるので、この位の年齢層の役者が適任なんだろうなと。

そしてビバリーは「Me and the Sky」の歌詞中で自分の年齢を51歳と歌っているのですが(もちろん原曲でも同じ年齢です)、演じる濱田めぐみの実年齢とも完全に一致しているのが凄い巡り合わせだなと驚きました。

出典:

| Music Theatre International

(余談ですが、日本の公式サイトの各キャラクター紹介文が、たまたま見つけたMTIのページにあるものと全く同じでした)

Come From Away (Musical) Characters
Come From Away characters breakdowns including full descriptions with standard casting requirements and expert analysis.

ブロードウェイ版Come From AwayはApple TVで全編視聴可能

ちなみにブロードウェイ版Come From AwayはApple TV+で全編見ることができます。

個人的には予習として見るよりも、観劇後に「あの役はこの人がやっていたっけ?」など記憶の復習用として使うのが良いと思いました。

観劇後に見てみると、日本版でも役やポジションの割り振りなどが本当に忠実に再現されていることがわかります!

劇中に出てくる固有名詞や言葉遊びメモ

Tim Hortons ティム・ホートンズ

島民たちのたまり場として登場するカフェ。

ティムホートンズはカナダ最大のファストフードチェーンで、マクドナルドやスターバックスよりも圧倒的に多い店舗数を誇ります。ドーナツがメインなので、日本でいうとミスドに近いかなと。

私も何度か行ったことがあるので、セットにあるロゴなどが懐かしかったです。

Shoppers ショッパーズ

オズ(吉原光夫)が女性陣に何度も使い走りをさせられるショッパーズ(正確にはShoppers Drug Mart)は、カナダのローカルドラッグストアです。

カナダ全土で1300店舗以上を展開している大手チェーン店だそうです。

島民たちが運んでいる物資の段ボールに、歯磨き粉のColgateのロゴが入っていたような気がして、アメリカ生活を思い出して懐かしかったです。

咲妃みゆが青いエプロンをつけて店員を演じているウォルマートは、アメリカの世界最大のスーパーマーケットチェーンですね。

Oprah Winfrey オプラ・ウィンフリー

ジャニス(咲妃みゆ)が、連絡が来て興奮した、留守電をまだ残してある、と言っているオプラ・ウィンフリーは、アメリカの大物司会者です。

彼女の名前を冠した名物トーク番組『オプラ・ウィンフリー・ショー』は、夕方のニュース番組の前の定番だったそうです。(1986年~2011年放送)

検索していて偶々記事を見つけたのですが、ジャニスの役は、新人レポーターだったJanice Gaudieと、もう一人の男性レポーターBrian Mosherのエピソードを組み合わせてできているとのこと(なので劇中でのジャニスのフルネームはJanice Mosher)

オプラ・ウィンフリーのショーからコンタクトがあったのはBrianの実話で、彼はこの記事の2022年時点でもまだその留守電の録音を残しているそうです!

Oz Fudge, Brian Mosher and Come From Away - Theatre Matters
Oz Fudge and Brian Mosher discuss the impact of Come From Away and why the story is more important than ever.

 

ケビンJの「卑猥な秘書」は元々言葉遊び

ケビンJ(田代万里生)が、自分がケビンT(浦井健治)の秘書兼恋人であることを「僕は卑猥な秘書」と言うのですが、これは英語版では”Sexy-tary”で、Sexyと Secretary(秘書)を掛けた言葉遊びになっているのでドカンと笑いが起きるんですよね。

最初観た時に「卑猥な秘書」というのが少し浮いて聞こえたんですが、でも確かにこのニュアンスを日本語で伝えるのはなかなか難しいなぁと。とはいえ、このセリフの言い方が公演を重ねるにつれて進化していて、どんどん笑いを誘う感じになって来ていたなと思います!

逆にニック(石川禅)の「離婚も結婚もしてない『しょっちゅうしゅっちょうしてて』」という部分は、英語版ではI travel a lot for workという普通の台詞なので、日本語でだけ言葉遊びができているパターンもあるんだなと。

ビューラとハンナの最後のジョーク

ハンナ(森公美子)がビューラ(柚希礼音)に言う最後のジョークが日本版では「ニューファンドランド人」と「新装開店」を掛けたジョークになっているのですが、英語版では全く違います。

ハンナ:Why are Newfoundlanders terrible at knock knock jokes? (なんでニューファンドランド人はノックノックジョークが下手クソなのかわかる?)

ビューラ:I don’t know(わからないわ)

ハンナ:Well, try it! I’ll be a Newfoundlander(やってみて!私もニューファンドランド人になりたいのよ)

ビューラ:Knock knock!(コンコン!)

ハンナ:Come on in! The door’s open!(入って!開いてるわよー!)

これで笑いが起こるのを理解するまでに何段階か掛かったので、自分用のメモなのですが、

まず「ノックノックジョーク」というのは英語圏で定番のジョークのパターンで、

ジョークを仕掛けたい人がKnock knock!(ドアをコンコン!と叩くジェスチャーで)と言ったら、受け手は「Who’s there? (どなた?)」と返すのが決まりです。そこから「○○だよ~」と駄洒落系のネタに繋がっていくわけですが、

そもそもニューファンドランド人はドアをノックされたら「どなた?」と聞かずに「開いてるから入ってー!」と返すので、ノックノックジョークが成り立たない!というのがハンナのジョークの笑いどころなのか!と。

凄く細かいのですが、同じ場面でオズ(吉原光夫)がワールドトレードセンターの鋼鉄の残骸をわけてもらった、という話題の時に「長さxxメートル、重さxxキロぐらい」と言うのが好きで。重さxxキロ!と正確な数字を言い切らずに「このくらい」というのがニューファンドランドの人らしさだなぁと思います。

ガース(浦井健治)の「決まりは作るけど守らない」という歌詞もそうですが、随所にこういうニューファンドランドの人の大らかさがにじみ出る表現があるので、どんどんお気に入りが増えていきますね。