水美舞斗、瀬央ゆりあ外部出演の舞台「HiGH&LOW THE 戦国」の公演期間も残りわずかとなり、日々劇中のお芝居も密度を増していっていることを実感します。
今回の「ハイロー」では3つの国それぞれの「リーダー×相方」2人がメインキャラクターとして描かれ、三国三様の関係性と結末が見どころだなと思います。
その中でも劇中での描写が少なく1度見ただけではわかりにくい気がする須和国の吏希丸(瀬央ゆりあ)の行動について、独断も交えながら細かく考察してみます。
2人の裏切り者:吏希丸(瀬央ゆりあ)と弦流(藤原樹)
まず三国のメインキャラクター各2人の関係性は以下の通りです。
須和国(すわのくに)
リーダー黄斬(きざん・片寄涼太)と幼なじみの吏希丸(りきまる・瀬央ゆりあ)
乃伎国(のぎのくに)
城主の湧水(ゆうすい・水美舞斗)と臣下の弦流(げんりゅう・藤原樹)
尊武国(そんぶのくに)
総大将の玄武(げんぶ・RIKU)と、玄武に憧れる白金(しろがね・浦川翔平)
劇中では、三国のナンバー2のうち吏希丸(瀬央ゆりあ)と弦流(藤原樹)の2人が悪役の糜爛(ヴィラン・阿部亮平)と通じ、リーダーを裏切ります。
それぞれ2人を信じていた黄斬(片寄涼太)と湧水(水美舞斗)は裏切られ、自分以外の誰も信じていなかった玄武(RIKU)は逆に最後まで裏切られない、というのが皮肉ですよね。
このうち弦流の裏切りの動機や行動については、劇中での独白やヴィランとの会話でしっかり語られているので、すっと理解できました。
一方で吏希丸の裏切りは、それを説明する台詞や場面がほとんど無いので、一度観ただけではその全容がつかめませんでした。
吏希丸の裏切りはどこで始まって、どこで変化するのか?何度か観てようやくわかってきたポイントをまとめてみます。
黄斬の呪いを解こうとして吏希丸はヴィランと繋がった?
吏希丸の行動の真意は一部、死ぬ間際の場面で明かされます
目的:黄斬を龍の呪い(悪作・おさの煩悩)から解き放つ
方法:自分が裏切り者になり、黄斬に己の意思で自分(吏希丸)を斬らせる
↑の投稿でまとめたように、吏希丸が須和国の龍の封印を解いたことで、黄斬が煩悩の呪いにかかってしまいました。
吏希丸はそれに責任を感じて、黄斬に呪いを解かせるためにヴィランと繋がってわざと裏切り行為をします。
裏切り行為とは、ヴィランの一味に扮し、仲間の戒(かい・うえきやサトシ)を人質として乃伎国の湧水(水美舞斗)に差し出し、黄斬を乃伎国に向かわせる(須和国を乃伎・尊武との戦いに巻き込む)ことです。
そして黄斬に裏切者として自分を斬らせることで、黄斬を呪いから解放した。
というのが「HiGH&LOW THE 戦国」を最初に観た時に得られた情報でした。
この時点では、吏希丸は、黄斬を助けるために自分の命を賭けた友達想いの人物、という見え方になります。
一度しか観ない人や、須和国メインで観ない人にとっては、この解釈のままでも十分話は通じるのが上手いところだと思います。
吏希丸はいつからヴィランと組んでいたのか?=最初から
しかし、吏希丸に注目して複数回観ると、吏希丸がヴィランと繋がったタイミングはもっと前であることが見えてきます。
そもそもヴィランが須和国の社を襲った際、悪作の煩悩に憑りつかれて弱っている黄斬にとどめも刺さずあっさり撤退するのは不自然です。実は撤退する際にヴィランは吏希丸とアイコンタクトをしていて、吏希丸もヴィランに対して目でうなずくような表情をしています。
つまり、物語の冒頭でヴィランが須和国の社を襲った時点(黄斬が龍の呪いに憑りつかれる前)から、吏希丸とヴィランは繋がっていたことになります。
公演期間後半に入ってから、瀬央さんの演技が少しずつ変化していて、このアイコンタクトに加えて
・ヴィランが須和国の社に向かっていると一報が入った際に、驚きではなく「(予期していたものが)来たか」という目の動き
→「社にはまとまった砂金をお供えしてある!」(仲間が納得しそうな理由を探して言ったというニュアンス)
・龍の封印を解くために斬った玉を、颯斗(小野塚勇人)たちが来た時に背中に隠す
というヒントをお芝居の中に加えてきていると思います。
そして須和国のお笑いパートの場面で、吏希丸が「花月雪星宙」「専科!」と突然宝塚ネタを始めるのも、よく見ると、颯斗と戒に「何で黄斬は社の刀を持ったんだ?」と聞かれたのを誤魔化すためです。
つまり、吏希丸とヴィランは今回のストーリーが始まる前から既に手を組んでいて、ヴィランが須和国の社を襲ったのは、龍の封印を解くという吏希丸との密約があったから、ということになります。
既に限界を迎えていた吏希丸と黄斬の理想論の対立
「HiGH&LOW THE 戦国」の作中で、吏希丸と黄斬の「あるべき須和国」の理想像はずっと対立しています。
「強く豊かな須和国を作り上げることで初めて民の平和が実現する。その為の戦いはやむを得ない」という吏希丸に対し、
「必要以上の豊かさは争いを生むだけ。必要最小限の資源で民の安全を守りながら暮らしていければ良い」というのが黄斬の主張です。
黄斬と吏希丸の最初のシーンで、「天下統一目前の夢を見た」と言う黄斬に対する吏希丸の反応、それをすぐに遮ろうとする黄斬の対応から、この2人にはずっと前から理想の須和国像について意見の対立と度重なる言い争いがあって、今に至るまで全く折り合いがついていないというのが伝わってきます。
ここからは私自身の想像や妄想が多く入った話になりますが、、、
おそらく黄斬の方は吏希丸との意見の相違をそんなに深刻な問題だと捉えていなかった一方で、吏希丸は既にかなり思いつめていて、独断で「理想の須和国」作りのために動き出してしまった、というのがこの物語の冒頭の状況なのかなと思います。
プロローグの後、吏希丸が客席前方の扉から登場して芝居部分がスタートしますが、この時の吏希丸の表情や、黄斬が起きていたとわかった時の反応からみて、ヴィランと社を襲う段取りをつけてきた帰りなのかもしれないと想像したりします。
現実主義者であり理想論者の吏希丸という人物
吏希丸は、自分の理想の須和国(=才ある黄斬が率いる強くて豊かな国)というものをかなり強く持っていて、それを実現するためならばどんな犠牲も厭わないという人物です。
一方で「今は刀でしか時代を変えられない」「戦って天下を目指す先にしか平和はない」と(戦国の世としては)現実的な考えを持っていて、漠然と「上を目指す以外にも何か別のやり方があるはず」と夢想する黄斬に対し苛立っています。
吏希丸にとって、理想の須和国を実現するためには「才ある黄斬が戦うことに覚悟を決め、天下を目指す」というステップが不可欠なのに、黄斬はいつまでもその決断をしようとしないので、「社の封印を解いて龍の力を黄斬に宿らせてしまえ!」というのが、最初にヴィランと組んだ動機なのかなと。(かなり乱暴ですが)
黄斬に龍の圧倒的な力が宿れば、強い須和国を実現するために覚悟を決めて動き出さざるを得ない、と考えたのかなと思うのですが、吏希丸はいつも黄斬自身の想いや希望をあまり大事にしていないんですよね。
なので吏希丸を「友達の為に自分の命を犠牲にする良い奴」と捉えるのには抵抗があって、彼にとっては「理想の須和国」が全てであって、言い方は悪いですが黄斬という存在はそれを実現するための手段である、そしてさらに自分の命は黄斬をリーダーたらしめるための手段でしかない、
理想の須和国>黄斬>自分自身の命
という絶対的な優先順位で動いている人物なのかなと解釈しています。
黄斬に煩悩の呪いが憑りついたことで吏希丸は自分の命の使い方を決断
吏希丸が理想の須和国を思い描いていた時、そこにはリーダーの黄斬とその隣に自分がいたはずです。
しかし黄斬の呪いを解く方法が「心の弱さに打ち勝つ」ことだと知った時、吏希丸は何かを決心した表情をするのですが、その時点で「理想の須和国」にいる未来の自分を消してしまったんだなと。
元々吏希丸の裏切り(ヴィランとの繋がり)は、黄斬に強い力を持たせて理想の須和国に近づこう、という想いからのものでしたが、その結果煩悩という形で逆に黄斬を弱めてしまいました。だったら自分の命は黄斬の呪いを解くために使わなくてはいけない、とここで吏希丸は心を決めたのだろうと思います。
そして仲間の戒を人質として乃伎国の湧水に差し出し、黄斬の前に裏切者として現れて、黄斬に覚悟を決めさせて彼自身の意思で自分を斬らせることで呪いから解放する、という結末へと動いていきます。
余談ですが、湧水(水美舞斗)も「維持は衰退を意味し滅びゆくのを待つだけ」と戦いに挑むことを決心するので、「平和ボケしたら須和は落ちていくだけ」と強さによって平和を実現しようとする吏希丸(瀬央ゆりあ)と実は結構考え方が合うのでは、と思ったりしました。
湧水と吏希丸の対面があのような形ではなかったら、また違った道もあったのかななどと想像を巡らせてしまったりします。
吏希丸の最後の問い「お前に時代を止められるか?」に応えた黄斬
吏希丸を失った後の黄斬は、乃伎国の湧水、尊武国の玄武と共闘してヴィランを倒し、三国で停戦協定を結びます。
刀でしか時代を変えられないと言い残した吏希丸と、あくまでも夢は天下を取ることではないという黄斬は、最後まですりあっていないのかな(吏希丸の死は黄斬の考え方にあまり影響を与えていないのかな)と最初の頃は少し寂しく思っていたのですが、
観劇を重ねていくうちに黄斬は
「それともお前に時代を止められるか?」
という吏希丸の最期の問いに答えたんだな、と思えるようになりました。
時代を止める、他国と停戦協定を結んで助け合う、なんてことは戦国の世では考えられなかったはずです。きっと吏希丸も最初から「ありえない」と切り捨てていたやり方で、黄斬は須和国の平和を一旦実現してみせた、それこそ、吏希丸が痛い程感じていた自分と黄斬の「器の差」なのかなと。
吏希丸の行動原理が伝わりにくい理由
吏希丸との一騎打ちの前、ようやく黄斬が刀を抜いて敵と戦い始めた時に吏希丸が「それでこそ剣黄伊右衛門(黄斬の本名)だ」と言うのですが、よく考えたら「HiGH&LOW THE 戦国」の中での黄斬はずっと悩みの中にあるので、本来の強さを観客は観ることができていないんですよね。
黄斬の状態として
①本来の心身ともに強い姿(吏希丸が当主の血を引く自分ではなく、黄斬こそがリーダーにふさわしいと確信する状態)
②内乱でかつての兄貴分や仲間を斬ったことで戦いに対する迷いが生まれている状態
③悪作の煩悩に憑りつかれて身動きができない状態
の3段階があると思うのですが、観客が見ているのは2と3だけなので、余計吏希丸の行動原理がわかりにくくなってしまう部分もあるのかなと。
黄斬に迷いを断ち切らせ、2→1に戻したいと思っているのが物語開始前の吏希丸で、黄斬が呪いにかかったことで3→1に戻さないといけなくなったのが物語中の吏希丸なんですよね。(呪いを解いて3→2に戻すだけでは不十分)
贅沢を言うなら、回想シーンででも1の時の黄斬と吏希丸の様子が見られたら、より二人の関係性の変化と結末に入り込めたのかなと思います。
追記:もしかすると戒と颯斗が出会った時の黄斬は、既に2の段階(頭脳明晰だが戦うことには消極的)だったのかな?と。
二人は黄斬の頭の良さに惚れ込んでいる描写が多く、強い黄斬というのはそんなに知らないのかもしれないと思いました。玄武の強さに二人が怯んでいる時、吏希丸だけが「玄武より黄斬の方が強い」と言って鼓舞しています。
二人が「いつもの黄斬」というのは2の段階の黄斬のことで、でもそれは1の段階の黄斬を知る吏希丸にとっては歯がゆいことだったのかもしれないな、と。
そう考えると周りに仲間が居ても一人思いつめていってしまう吏希丸の孤独というものも、より分かる気がしました。
片寄涼太と瀬央ゆりあだからこそ成り立った役どころ
そういう意味でも黄斬と吏希丸は舞台上で説得力を持たせることが本当に難しい役どころなのですが
描かれていない黄斬のリーダ―としての資質を、自身のスター性で見せられる片寄涼太と
台詞や場面になっていない吏希丸の行動原理を、緻密な芝居力で表現してくれる瀬央ゆりあ
というお二人の組合せだったからこそ成り立っているなと改めて実感しました。
残念ながら千秋楽まで残りわずかとなってしまいましたが、毎回熱く進化し続ける「HiGH&LOW THE 戦国」を最後まで楽しみたいと思います!