永久輝せあ主演「冬霞の巴里」よりギリシア悲劇「オレステイア」あらすじと配役を予習

宝塚花組

2022年宝塚花組で永久輝せあ主演の「冬霞の巴里(ふゆがすみのパリ)」の上演が発表されています。

「龍の宮物語」でデビューした指田珠子先生作・演出の第2作目ということで、個人的にも注目度の高い作品になりそうだなと。

花組公演「冬霞の巴里」はタイトルの通り19世紀末のパリが舞台の作品ですが、公演のあらすじによると、ギリシア悲劇の「オレステイア」がモチーフに使われると明かされています。

ギリシア悲劇「オレステイア」とはどんな物語なのか、そのあらすじと登場人物を簡単に予習してみました。

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「冬霞の巴里」と「オレステイア」の登場人物と配役

宝塚花組公演「冬霞の巴里」のあらすじには、以下の登場人物の名前が挙がっています。

オクターヴ(永久輝せあ):新聞記者の青年、母と叔父への復讐を企む
アンブル(星空美咲):オクターヴの姉で歌手、弟と共に復讐を企む

オーギュスト(和海しょう):オクターヴの父、オクターヴが幼い頃母と叔父により殺される
クロエ(紫門ゆりや):オクターヴの母、夫を殺害した後ギョームと再婚
ギョーム(飛龍つかさ):オクターヴの叔父

ミッシェル(希波らいと):オクターヴとアンブルの異父弟
エルミーヌ(愛蘭みこ):ミッシェルの許嫁

ヴァランタン(聖乃あすか):オクターヴとアンブルに近づく素性の分からない男

それぞれギリシャ悲劇「オレステイア」ではどのような役どころなのか、見ていきたいと思います。

オクターヴ(永久輝せあ)=オレステース

まず主演の永久輝せあが演じる新聞記者の青年・オクターヴ役は、「オレステイア」のオレステースに当たる人物と思われます。

オレステースは父が母と叔父に殺された後、幼くして国を離れて育ち、母と叔父への復讐を果たすために戻ってきます。復讐を成し遂げた後、母クリュタイメーストゥラーの亡霊に操られた復讐の女神(エリューニス)達に取りつかれ、苦悩することになります。

アンブル(星空美咲)=エーレクトゥラー

オクターヴの姉で歌手のアンブルは、「オレステイア」のエーレクトゥラーに当たる人物でほぼ間違いないでしょう。

エーレクトゥラーは弟のオレステースと生き別れた後、母親の元で使用人同然の扱いを受けて育ちます。弟と再会した後、共に敵討ちを誓い、母殺しにひるむ弟を鼓舞することもあるような人物です。

オーギュスト(和海しょう)=アガメームノン

オクターヴの資産家の父オーギュストは、オクターヴ姉弟が幼い頃、母と叔父によって殺害されます。

「冬霞の巴里」では配役に「オクターヴの少年時代(初音夢)」「アンブルの少女時代(湖春ひめ花)」の名前もあるので、父オーギュストが母と叔父に殺害されるところも描かれるのかなと。

父オーギュストは「オレステイア」のアガメームノンに当たる人物と思われます。アガメームノンはギリシア軍の総帥で、長期の遠征から久しぶりに国に戻った際に妻クリュタイメーストゥラーとその愛人アイギストスによって殺されます。

オレステースが敵討ちを誓うきっかけになる人物ですが、アガメームノン自身にも非があるというか、オレステースのもう一人の姉イーピゲネイアを生贄にしたり、征服した国の王女カッサンドラを奴隷兼愛人として連れて帰ってくるような人物でもあります。

クロエ(紫門ゆりや)=クリュタイメーストゥラー

オクターヴの母で復讐対象、夫殺害後に夫の弟であるギョームと再婚

クロエは「オレステイア」のクリュタイメーストゥラーに当たる人物です。クリュタイメーストゥラーは夫を殺し、愛人であるアイギストスと共に政治の実権を奪う悪女です。ただ、娘のイーピゲネイアを夫のせいで失うなどの過去もあります。

「オレステイア」のクリュタイメーストゥラーは、息子であるオレステースに復讐された後も、亡霊として物語を操り続ける存在でもあります。

ギョーム(飛龍つかさ)=アイギストス

オクターヴの叔父で復讐対象、クロエと再婚していてミッシェル(希波らいと)の父

ギョームは「オレステイア」のアイギストスに当たる存在。いとこであるアガメームノンに恨みを持っていて、同じく彼に恨みを持つ彼の妻クリュタイメーストゥラーと結託して殺害を実行します。その後クリュタイメーストゥラーと共に国の実権を握りますが、オレステースに復讐されます。

ミッシェル(希波らいと)エルミーヌ(愛蘭みこ)ヴァランタン(聖乃あすか)は「オレステイア」に不在?

オクターヴとアンブルの異父弟ミッシェル(希波らいと)は、母クロエ(紫門ゆりや)と叔父ギョーム(飛龍つかさ)の息子ということなのかなと。

「オレステイア」の中にミッシェルに該当する登場人物はいなさそうです。

ミッシェルの許嫁エルミーヌ(愛蘭みこ)も、「オレステイア」で該当する登場人物はいなさそうです。

オクターヴとアンブルに近づく男、ヴァランタン(聖乃あすか)がどんな人物なのか、現時点では全くわかりませんが、「オレステイア」と関連付けるならば、復讐の女神達(エリューニス)を具現化したような存在、もしくは予言者カッサンドラや女神アテーナーの要素の入った人物、などが考えられるのかな、と想像してみたりします。

また、「冬霞の巴里」の公演あらすじに「19世紀末パリ、ベル・エポックと呼ばれる都市文化の華やかさとは裏腹に、汚職と貧困が蔓延り、一部の民衆の間には無政府主義の思想が浸透していた」とあるので、無政府主義者のような人物が登場する可能性もあるのかなと思います。

「冬霞の巴里」のモチーフ「オレステイア」のあらすじ

「オレステイア」は古代ギリシアの詩人アイスキュロス(紀元前525年頃~456年)による悲劇三部作の戯曲です。

そのあらすじを簡単にまとめてみました。

第一部『アガメームノン』

ギリシア軍の総帥アガメームノンが、長年の遠征から帰還する。彼は征服したトロイア国の王女カッサンドラを奴隷兼愛人として連れて帰ってきていた。

「悲劇の予言者」として知られるカッサンドラは、神アポロンに愛され予知能力を授かるものの、その愛を拒絶したため「カッサンドラの予言は誰も信じない」という呪いをかけられていた。カッサンドラは、アガメームノンの一家には復讐の女神(エリーニュス)が取り憑いていること、いつか息子オレステースによる仇討ちが成されることを予言する。

アガメームノンの妻クリュタイメーストゥラーは、夫がトロイア戦争に出征する際、娘のイーピゲネイアを女神への生贄にしたことを恨み、復讐を企てていた。クリュタイメーストゥラーとその愛人アイギストス(アガメームノンのいとこ)は、帰還早々にアガメームノンとカッサンドラを殺害し、自分たちがギリシアの支配者となることを宣言する。

第二部『コエーポロイ』(供養する女達)

第一部の物語から約10年後、アガメームノンとクリュタイメーストゥラーの息子であるオレステースが、いとこのピュラデースと共に密かに国外から帰還する。

ギリシアはクリュタイメーストゥラーと愛人アイギストスによって支配されており、オレステースの姉エーレクトゥラーは使用人同然の扱いを受けていた。

父アガメームノンの墓前で再会したオレステースとエーレクトゥラーは、父の仇討ちとして母クリュタイメーストゥラーを殺すことを誓う。

葛藤の末、オレステースは母クリュタイメーストゥラーとアイギストスを殺し、復讐を成し遂げる。しかしすぐに復讐の女神達(エリューニス)に追われる狂気に取りつかれる。

第三部『エウメニデス』(慈しみの女神達)

アテーナイの法廷では、オレステースの「母殺し」の罪について裁判が開かれる。神アポロンはオレステースを擁護するが、クリュタイメーストゥラーの亡霊に操られた復讐の女神達(エリューニス)は、「血を流した者はその血で代償を払わなければならない」とオレステースを糾弾する。

アテーナイの市民から成る裁判官たちがオレステースの有罪・無罪を投じた票は同数だったが、最終的に女神アテーナーによってオレステースの無罪が決定する。女神アテーナーの説得により復讐の女神達(エリューニス)は怨念と復讐欲を捨てて「慈しみの女神達」(エウメニデス)となり、ついに憎しみと復讐の連鎖が断ち切られる。

冠タイトル「Fantasmagorie」の意味は?

花組公演「冬霞の巴里」にはFantasmagorie(ファンタスマゴリー)という冠タイトルがついています。

Fantasmagorieはフランス語で、18世紀末にフランスで発明され19世紀にヨーロッパで流行した、幻灯機(スライド映写機)を使った幽霊ショーのことを指します。

暗い会場にスモークを焚き、雨風や雷鳴の音、不気味な笑い声といった効果音に合わせて、複数の幻灯機でスクリーンに次々と骸骨や悪霊、亡霊などの画像を映し、幻灯機を動かすことで画像を動かす、という仕掛けで、ホラー映画の原点とも言われているそうです。

Fantasmagorieという冠タイトルから考えると、「冬霞の巴里」で描かれるオクターヴとアンブルの復讐劇は、亡霊たちによって操られている幽霊ショーのような構造、ということでしょうか。

アイスキュロスの悲劇作品三部作「オレステイア」をモチーフに、亡霊たち、忘れ去られた記憶、過去と現在、姉と弟の想いが交錯する。復讐の女神達(エリューニス)が見下ろすガラス屋根の下、復讐劇の幕が上がる…! (「冬霞の巴里」公演解説より)

指田珠子先生は前作「龍の宮物語」でも、時を超える人の怨念というものをテーマに作品を作っていましたが、今回の「冬霞の巴里」でも、人間の持つ負の感情や記憶というものが大きなポイントになりそうです。

公演解説にある「忘れ去られた記憶」が何を指すのか、オクターヴとアンブルの復讐劇がどのような結末を迎えるのか、新たな指田先生ワールドが今から楽しみです。

花組公演『冬霞の巴里』公演情報・期別出演者

Fantasmagorie
『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』
作・演出/指田 珠子

公演期間:
2022年3月25日(金) – 4月2日(土)@梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2022年4月8日(金) – 4月14日(木)@東京建物Brillia HALL

出演者:
花組
美風舞良(82期)
和海しょう(94期)
永久輝せあ、春妃うらら、紅羽真希(97期)
飛龍つかさ、峰果とわ(98期)
凛乃しづか、高峰潤(99期)
聖乃あすか、和礼彩(100期)
咲乃深音、芹尚英(101期)
侑輝大弥、三空凜花(102期)
朝葉ことの、希波らいと、海叶あさひ、琴美くらら(103期)
愛蘭みこ、青騎司(104期)
美空真瑠、星空美咲、夏希真斗、湖華詩、初音夢(105期)
湖春ひめ花、鏡星珠(106期)

専科
一樹千尋(59期)
紫門ゆりや(91期)