宙組公演「プロミセス、プロミセス」で和希そらが演じた人事部長シェルドレイクは、フラン(天彩峰里)をはじめ社内の女性と不倫を繰り返してきた悪い男です。
なぜ奥さんにバレないのか?と思ってしまいますが、「プロミセス、プロミセス」劇中で明かされるシェルドレイクの不倫隠ぺい術があまりにも隙が無さすぎて、悔しいけれど白旗!という気分になりました。
シェルドレイクの何が完璧なのか、元アメリカ在住者目線で語ってみたいと思います。
アトランティックシティ=カジノの街だから疑われない
まず1つ目のポイントは、シェルドレイク(和希そら)が、フランをはじめ歴代の不倫相手との週末旅行に使っていたのが「アトランティックシティ」ということです。
地図の赤丸は上から順に「シェルドレイクの自宅があるホワイトプレインズ」「オフィスのあるマンハッタン」「アトランティックシティ」の場所です。
アトランティックシティ(Atlantic City)はニューヨーク州の隣、ニュージャージー州の南部にある海沿いのリゾート地で、マンハッタンから車で3時間弱の距離です。
普通に考えれば、家族以外の人と週末に泊りがけで海沿いの街に旅行なんて絶対おかしい!となるはずですが、アトランティックシティの場合は違うんです。
もし私がニューヨークの同僚に「週末アトランティックシティ行ってきたよ」と言ったら、ほぼ間違いなく「どうだった?勝った?」と返されます。「アトランティックシティに行く=カジノ」なんです。
正直今は少し寂れた雰囲気も漂っているのですが、一応アトランティックシティはラスベガスに次ぐアメリカ第2のカジノの街です。そのためニューヨークから日帰りや1泊2日でアトランティックシティのカジノに遊びに行く、というのは週末の娯楽としてはかなり定番です。
ただ、アメリカ在住時代私も何度かアトランティックシティに行きましたが、正直カジノ以外の場所の治安や雰囲気はあまり良くないです。一応海岸沿いに遊歩道なんかもあるにはあるんですが、恋人や家族と行くにはもっと良いリゾート地が同じ沿岸部にいくつもあります。
それなのにわざわざアトランティックシティに行くのは、目的がカジノだからだよね、という共通認識があるので、仮にデートが本当の目的だとしても上手くカモフラージュできてしまうのです。
・マンハッタンからアトランティックシティまでは車で3時間弱掛かるので、平日に行くには遠い
・カジノが盛り上がるのは深夜以降なので、夜通し朝までカジノで遊んでいた、というのもよくある話
という条件もあり、出張者を週末泊りがけでアトランティックシティに連れて行くというのは、全く不自然ではないんですね。
(厳密に言うとアトランティックシティでカジノが合法化されたのは1970年代なので、「プロミセス、プロミセス」の時代設定よりは後なんですが、それ以前からナイトライフが盛んな街ではあったようです)
なのでシェルドレイクに
「カンザスシティ支店長がニューヨークに出張で来ていてね。週末アトランティックシティに連れて行かなくちゃいけないんだ」
「(帰りが翌日になっても)カンザスシティ支店長、カジノ好きで全然切り上げてくれなくて」
と言われたら、話しがあまりに自然なので、奥さんはそのまま信じると思います。
実際は、「カンザスシティ支店長」ではなく「フラン(天彩峰里)」と、アトランティックシティで「夜通しカジノ」ではなく「泊りがけの不倫旅行」をしているわけですが……。
カンザスシティ支店長というチョイスの絶妙さ
シェルドレイク(和希そら)は、「不倫相手とデートをする」ことを、「出張で来ている〇〇支店長を案内する」と言い換えて話します。
今の不倫相手フラン(天彩峰里)の隠語は「カンザスシティ支店長」、数年前の不倫相手ミス・オルスン(瀬戸花まり)の隠語は「ミネアポリス支店長」です。
このアメリカの都市名のチョイスの仕方も、考えれば考えるほど絶妙で、シェルドレイクにはかなわないな……という気分になります。
まずカンザスシティもミネアポリスもアメリカ中西部に位置する都市で、あまり娯楽もないような奥地です。
これがもし「ロサンゼルス支店長が出張で来ていて」なら、「ロサンゼルスも大都会だし、わざわざシェルドレイクが案内しなくても1人で楽しめるのでは?」
これが「マイアミ支店長が出張で来ていて」なら、「気候も良いし、パリピの街だから雨でもパーティー三昧で最高みたいだし(←ドクタードレファス(輝月ゆうま)お墨付き!)、普段から十分楽しんでいるよね?」と突っ込まれそうなんですが、
カンザスシティやミネアポリスと言われたら、そりゃせっかくのニューヨーク出張だったら色々楽しみたいよね、と。夜バスケットボールの試合を観に行ったり、週末アトランティックシティに行ったり、とシェルドレイクが案内するのも自然なわけです。
そしてもう一つ、カンザスシティやミネアポリスは田舎ではあるものの、その地方の中心都市だということもポイントかなと。つまり「カンザスシティ支店長」や「ミネアポリス支店長」というのは、ある程度大きな支店のトップで、社内でそれなりに重要なポジションだろうということです。
あまりにも小さい支店の出張者であれば「人事部長のシェルドレイクがわざわざ相手をするか?」という疑問も出てきそうですが、カンザスシティ支店長やミネアポリス支店長なら、シェルドレイク自ら出張者の相手をするというストーリーも、これまた自然なんですよね。
本当に、どこから考えても隙の無いシェルドレイクの不倫隠ぺい術です。
シェルドレイクが住んでいるのは郊外のホワイトプレインズ
最後にもうひとつ補足するならば、シェルドレイクの自宅がマンハッタンから遠く離れたホワイトプレインズ(White Plains)にあるということも、シェルドレイクの不倫が疑われない要素のひとつかなと思います。
前回書いた通り、ホワイトプレインズはマンハッタンから鉄道で1時間弱のところにある町ですが、心理的にはかなり遠いというか、マンハッタンとは全く異なる空気が流れています。雑な例えで申し訳ないですが、東京と鎌倉ぐらいの感じかなと。
アメリカらしい大きな一軒家に住んで、結婚12年で小さな子ども3人を育てているシェルドレイクの奥さんが接する世界といえば、子どもたちの学校関連、ご近所付き合い、地域の教会のチャリティ活動という感じだと思います。
奥さんが1人でマンハッタンに行くなんてことはまずないと思いますし、重役たちが揃いも揃って愛人をつくって楽しんでいるような世界に夫がいること自体、想像がつかないのではないかなと。
このようにどこからどう考えても、シェルドレイクの不倫は奥さんにバレそうにないのです。
そんなシェルドレイクの唯一にして最大の弱点は、不倫相手の選び方ですよね。他の重役たちのように、遊びと割り切って楽しんでくれる女の子を選べば良いのに、シェルドレイクが選ぶのは数年前のミス・オルスンや今のフランのように、自分に本気になってしまう女性ばかりです。
おそらくそれがシェルドレイクの性癖というか、あえてそういうタイプを選んでいるところが、益々悪い男だなあと。
そんなシェルドレイクも、ついに彼の手の内を長年見てきたミス・オルスンから奥さんへの密告によって離婚の危機に瀕します。劇中でシェルドレイクは「妻とは離婚することになったから、フランにプロポーズする」とチャック(芹香斗亜)に言っていますが、時期をはぐらかしているので、結局離婚はしないのでは?と思ったりします。
さて「いかにシェルドレイクの不倫隠ぺい術が完璧か」というだけの話に、長々お付き合いいただきありがとうございました。
もし私がシェルドレイクの妻だったら「カンザスシティ支店長と週末アトランティックシティに行く」が「不倫相手との週末旅行」だとは、まったく気づかないと思います。
悔しくて憎たらしいですが、隙が無さすぎるシェルドレイク部長に白旗!です。