瀬央ゆりあ主演の雪組公演「DayDream Dali」が開幕しました!
早速観劇しましたが、ダリワールド&谷貴矢ワールド全開の作品になっています。
「DayDream Dali」はダリの夢の中の「超現実」世界が主な舞台なので、実在のサルバドール・ダリの生涯については予備知識がなくても、舞台上で表現されていることだけで十分かなという印象です。
一方でダリの作品については、頭の中にある程度イメージがあった方が楽しめる部分も多いなと感じたので、「DayDream Dali」に関連の深いダリ作品とその意味、登場人物などについて少しまとめておきたいと思います。
一番下には結末に関するネタバレ感想もありますのでご注意ください。
「DayDream Dali」に登場するダリ作品
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『記憶の固執』チーズの「超柔らかさ」から生まれた溶けた時計
1931年(ダリ27歳)の作品
ダリの代表的なイメージになっている溶けた時計。
「DayDream Dali」の中でも、この作品の誕生エピソードが語られますが、「愛」を表現しているという解釈は、おそらく実際とは異なります。
ただ、カマンベールチーズの「超柔らかさ」がインスピレーションのきっかけになったことや、2時間で書き上げた(正確には元々書いてあったポルト・リガドの風景画に時計を書き足した)ことは史実だそうです。
止まった時計=死を表すとされ、左下には「時計に群がる蟻」も描かれています。
ダリにとって「群がる蟻」は死や終末を象徴するモチーフで、劇中でもナルシス(華世京)の小道具や映像に蟻が使われています。
『ダリの太陽』ダリ最後の自画像

1965年(ダリ61歳)の作品
「DayDream Dali」のクライマックスで書き上げたとされる絵。
劇中ではこれがダリの遺作というストーリーになっていますが、公演プログラムで谷貴矢先生自ら申告しているように、これは大ウソです。当時ガラはまだ生きていますし、ダリの本当の遺作はこれより18年も後に書かれています。
ただ、これがダリの最後の「自画像」であることは事実で、不滅の象徴である太陽と自分を重ね合わせ、永遠の命を願って自らを神格化して描いた、とされています。
また、この作品は点描法を取り入れた手法で描かれていて、この2年前に描かれた『亡き兄の肖像』という作品と対の構造になっているとのこと。
「DayDream Dali」作品中でもダリは自画像を描くのが苦手だった、という言及がありますが、「死んだ兄のコピーである」という幼い頃からの強迫観念と向き合い乗り越えた先が『ダリの太陽』でもあるのかなと感じます。

ちょうど「DayDream Dali」の公演中に開催されていた『拡大するシュルレアリスム』展にこの「ダリの太陽」が展示されていたので見にいってきました。


絵具の厚みや筆の勢いなど、実物ならではの角度で見ることができました。
ダリの他の作品には見るものを驚かせようというような意外性や毒気がありますが、この「ダリの太陽」はそれが感じられず真っ直ぐな印象を受けて面白かったです。
『ツバメの尾』ダリの本当の遺作&劇中で登場するサイン
1983年(ダリ79歳)の作品
この作品がダリの本当の遺作。
ダリのイメージとはかけ離れたシンプルな印象の作品です。
ツバメの尾を表す下の三角形は、ダリが後半生に使用していたサインD(δ)で、その上の飛び立つような曲線はサルバドールのS、そしてDとSの重なりによって先立った妻ガラ(輝月ゆうま)のイニシャルであるgが浮かび上がる、という構造で、ガラが待つあの世まで飛んでいくという意味が込められていると言われています。
このサインは「DayDream Dali」作中でも使われていて、ダリを演じる瀬央ゆりあがこのサインを描くような振り付けもあったと思います。
『ナルシスの変貌』ナルシス(華世京)にまつわるモチーフたち
1937年(ダリ33歳)の作品
ジョーカー・ナルシス(華世京)が体現する絵がこの『ナルシスの変貌』です。
この絵は情報量がとても多いので全部は読み切れませんが、
まず土台にあるのが、「ナルシスト」の語源としても有名なギリシャ神話の「ナルキッソス」の物語です。
このモチーフは2022年星組のショー『JAGUAR BEAT-ジャガービート-』の一場面で暁千星と極美慎が演じていますが、美少年ナルシスは水鏡に映る自分の姿に恋する呪いをかけられ、自分を抱こうとして溺れ死んでしまい、その跡には水仙が咲いたというストーリー。
ダリは、16世紀の画家カラヴァッジョが描いた「ナルキッソス」の構図をモチーフに、この絵を描いていて、手前に描かれたナルシスの死が、ひび割れた手に這いまわる蟻などで暗示され、その先には卵から水仙が芽吹こうとしています。
白い水仙の英語名・学名がNarcissus=ナルキッソス、ナルシスなのですが、この名前もギリシャ神話のナルキッソスが由来となっていて、「DayDream Dali」の中でも華世京ナルシスの衣装などに白いスイセンがあしらわれています。
『ロブスター電話』硬い殻はダリを守るガラの象徴
1938年(ダリ34歳)の作品
「DayDream Dali」でジャック・ロブスター(諏訪さき)が体現しているロブスター。
ダリは弱い自分を守ってくれる妻ガラを「殻」と捉えていたと言われています。
卵もロブスターも、硬い殻と中身の柔らかさという対比が、ガラと自分の関係性の象徴として、好んで作品に取り入れていたモチーフです。
全くの偶然ですが、ガラの名前が日本語の「殻」の音と重なるのがなんとも面白いなぁと思います。
「DayDream Dali」主な配役とキャストの役どころ
サルバドール・ダリ:瀬央ゆりあ
20世紀を代表する芸術家。(1904年~1989年)
世間的には奇才と呼ばれるエキセントリックなイメージですが、「DayDream Dali」の世界では、その虚像の下にあるナイーブな一人の人間としての姿が描かれていて、ガラや超現実世界の登場人物たちに振り回される役どころです。
クイーン・ガラ:輝月ゆうま
ダリの最愛の妻。(1894年~1982年)
「DayDream Dali」の中では、ガラが先に亡くなっている状態なので、超現実世界(ダリランド)のクイーンとして登場します。
ラスボスでありヒロインでもある、という輝月ゆうまを配役したからこそできるガラの描かれ方になっています。
アマンダ・リア:星沢ありさ
ダリの年の離れた愛人。
ダリの晩年にはダリから離れ別の人生を歩んでいたが、ダリが衰弱していると聞いて駆けつける。
「DayDream Dali」のストーリーテラーの役割も担っています。
今『サルバドール・ダリが愛した二人の女』*というアマンダ・リアの回想録を読んでいるのですが、実在のアマンダも、ダリだけでなくガラとも絆があったことがわかって、なかなか面白いです。
*原題は『PERSISTENCE OF MEMORY A Personal Biography of Salvador Dali』(”記憶の固執” サルバドール・ダリの個人的な伝記)で、冒頭に「忍耐強く愛し続けたダリ夫人、ガラに捧ぐ」と書かれています。
ジョーカー・ナルシス:華世京
ダリが描いた絵「ナルシスの変貌」の具現化で、超現実世界「ダリランド」のリーダー的存在。
クイーン・ガラ(輝月ゆうま)と戦うため、ダリ(瀬央ゆりあ)をダリランドに連れてくる。
ナルシスの行動原理や意図は「DayDream Dali」のストーリーの核心となる部分なのですが、1回の観劇ではなかなか追いきれないところもあるかなと思い、下の感想部分で改めて語っています。
超現実世界の時計の数字たち
クイーン・ガラ(輝月ゆうま)によって壊された時計の数字を具現化した存在で、ナルシス(華世京)をリーダーとするチームのような立ち位置。
その中でも11のジャック・ロブスター(諏訪さき)と10のディエス・エレファント(愛陽みち)が双璧と呼ばれる強い存在で、衣装もロブスターとゾウがモチーフになっています。
1~9まではそれぞれキャラクターに個性はありつつ、代わる代わるセリフを繋いでいくような感じで、2023年雪組公演『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』のシャーロックホームズたちのようなイメージです。
ウーノ(1):霧乃あさと
一番年少?で気弱な雰囲気
ドス(2):紗香にいな
トレス(3):希翠那音
ドスとトレスは男女の双子
クアトロ(4):妃奈環
おっとり系女子
シンコ(5):風雅奏
「っす!」系男子
セイス(6):瑞季せれな
セクシーお姉さん
シエテ(7):紗蘭令愛
「押忍!」「気合い!」系男子
オチョ(8):夢陽まり
可愛い系女子
ヌエベ(9):麻斗海伶
メガネの生真面目系男子
ディエス・エレファント(10):愛陽みち
知略に長けている
ゾウもダリが繰り返し描いたモチーフの一つです。特に脚が極端に細長い「宇宙像」と呼ばれるゾウが有名です。
ジャック・ロブスター(11):諏訪さき
武勇のジャック・ロブスターと紹介される通り、いつも剣を持ちキリっとしているキャラクターです。
上でも書いた通り、ロブスターの硬い殻と中身の柔らかさというギャップをダリは好み、「ロブスター電話」など作品にも登場させています。
回想で登場する実在の人たち
ヤング・ダリ:紀城ゆりや
ダリの学生時代~ガラとの出会い~「記憶の固執」を書き上げるまでを演じる
二役で、ガラ(輝月ゆうま)の愛人ジェフとしても登場します。
ダリの愛人アマンダ役の星沢ありさも二役でヤング・ガラを演じているので、
ダリとガラが、愛人にお互い似た人を選んでいることがわかる構造になっています。
もっとヤング・ダリ:音綺みあ
兄のコピーとしての自意識を植え付けられる少年時代のダリ。
2幕ではクイーン・ガラと二人でいたりと、象徴的にも登場します。
パパ・ダリ:天月翼
サルバドール・ダリの父親
ママ・ダリ:愛羽あやね
サルバドール・ダリの母親
パブロ・ピカソ:透真かずき
ダリより20歳程年上の大芸術家。
実在のピカソも、ダリに資金援助をしたりと同じスペイン人の芸術家としてダリに目をかけていたそうです。
ポール・エリュアール:乙瀬千晴
ガラの夫でダリの友人。エリュアールはガラの男性関係に寛容で、ガラの恋人を家に同居させたりもしていたそうです。
ルネ・マグリット:藤影ゆら
シュルレアリスムを代表する画家のひとり。
ジョル・ジェット:琴華ひまわり
ルネ・マグリットの妻
現実世界でダリの傍にいる人たち
エマ:愛空みなみ
晩年のダリの世話をしているメイド。ダリの様子を心配している。
エマは控えめで真面目なキャラクターで、強いガラやアマンダとは正反対の女性なのですが、それがダリ自身の本質とも近しいような気がして、だからこそ彼女が晩年のダリの信頼を得たのかなと感じられる存在でした。
ラロ:天月翼
ダリを診察している医師
サラ:愛羽あやね
ダリ家に来ている看護師
クイーン・ガラ(輝月ゆうま)の側近
デセオ:苑利香輝
ディネーロ:水月胡蝶
この二人が今回ビジュアル担当という感じです。
デセオ(苑利香輝)は黒髪ロングで冷徹系。ディネーロ(水月胡蝶)はアシンメトリーな金髪で魅惑系ですが、クイーン・ガラに犯人扱いされたり足を踏まれたり意外と雑に扱われるという面白ポイントもあります。
「DayDream Dali」結末ネタバレ感想:ダリを巡るガラとナルシスの考察
ここからは完全にネタバレ前提の感想なので、観劇前の方は自己責任でお願いします!
ダリ(瀬央ゆりあ)は、超現実世界(ダリの夢の中)の危機を救うという名目でナルシス(華世京)に「ダリランド」に連れてこられるわけですが、
実際にはダリという存在を巡って、ガラ(輝月ゆうま)とナルシスが対立しているという構造です。
生と死、愛と芸術の対立
ガラは、ダリが本能的には「生きていたい人」だということを見抜いていて、穏やかに天寿を全うしてほしいと願うのがガラの愛です。
一方でナルシスは、ダリが少年時代から身近に感じていた「死」の象徴であり、ドラマチックな死によってこそ、ダリという芸術作品が完成する、という立ち位置です。
ダリを巡る生と死、愛と芸術、という二者択一の構造が、ガラとナルシスによって表現されているのだと思うのですが、それ以外の情報量が多いこともあって、この構造が観劇中にそこまでくっきり浮かびあがって来なかったのが、少しもったいないかなという印象を持ちました。
ガラ側の行動原理は書き込みが多いので伝わるのですが、ナルシス側は道化要素も強く、そちらに目が行きがちなので(ナルシスと行動を共にしている数字メンバーは、ナルシスの意図をあまり深く認識していなそうですし)ナルシスが色濃く悪に見えるターンがあったら、より面白かったかなと。
ガラが時計を壊して超現実の世界を闇にした理由は、現実世界で火事にあったダリを死なせないためです。
なぜダリの家が燃えたのか?ダリが自分で火をつけたのかもしれない、という疑惑はメイドのエマ(愛空みなみ)から示されますが、ダリの内面にある「ガラ」と「ナルシス」の対立構造で考えれば、火事はナルシスが仕向けたもの、となる気がします。
先にダリを「炎の中で悲劇的な死を遂げた芸術家」として完結させようとしたナルシスがいて、それを止めようとしたガラ、なのではないかなと。
ただしダリ本人は自分の意志でやったことと認識している
⇔それなのにガラに言われるまで火事のことを忘れているという矛盾
=ダリの中のナルシスの仕業?なのかなと
回想の火事のシーンで、ナルシスの関与がわかるような演出があったら、私個人的にはよりスッキリしたかなぁと思います。
5/2追記:何度か観ると、ナルシスが「炎の中のキングは美しかった」と、火事の場にいたような発言をしてはいるんですね。
また、ガラが火事の真相を「その水仙に聞いてみなさい」とダリに言っているのも、水仙=ナルシスということなのだろうなと。(そもそも水仙の英語名・学名がNarcissus=ナルキッソス、ナルシスですし、DayDream Daliでも華世京ナルシスの衣装などに白いスイセンがあしらわれています)
*余談ですが、星組公演「Big Fish」でも水仙がキーワードになっていましたが、あちらは黄色いスイセンなので英語名はDaffodilになり、第1幕最後の礼真琴&詩ちづるのデュエット曲のタイトルもDaffodilsでした
時間の力を逆に活かすハッピーエンド
これが今回の「DayDream Dali」という作品の一番の特徴かなと思うのですが、生と死、愛と芸術という二者択一のように見える選択肢に対して、ダリは「どちらも選ぶ」「時間を積み重ねることで両方叶える」という結論を出すんですね。
ダリにとってネガティブな存在だった「時計」や「時間」をポジティブなものとして受け止め、武器に変える、というのが凝っているなと。
ガラもナルシスも、ダリが「もう絵を描けない」というのが前提だったからこそ、
ガラ「ならば穏やかな余生を生きてほしい」
ナルシス「ならばドラマチックな死で最期を飾ってほしい」
という対立が生まれただけで、どちらもダリやダリの絵を愛していることに変わりはないんですよね。
だからこそ、どちらか片方を断罪するのではなく大団円の喜劇にする、という着地点が谷貴矢作品らしく、かつ瀬央ゆりあ主演ならではという気もして、観劇後とても暖かい気持ちになる作品でした。
雪組公演「DayDream Dali」公演情報・期別出演者
超現実浪漫(シュルレアリスム・ロマン)
『DayDream Dali』
作・演出/谷貴矢
公演期間:
2026年4月15日(水) ~4月23日(木)@梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
[大阪府]
2026年4月30日(木) ~5月9日(土)@東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)[東京都]
出演者:
雪組
透真かずき(91期)
天月翼、瀬央ゆりあ(95期)
諏訪さき(99期)
麻斗海伶(101期)
愛羽あやね、紗蘭令愛(103期)
愛陽みち、風雅奏(104期)
紀城ゆりや、愛空みなみ、希翠那(105期)
華世京、霧乃あさと、夢陽まり、藤影ゆら(106期)
瑞季せれな、妃奈環、乙瀬千晴(107期)
苑利香輝、紗香にいな、星沢ありさ、水月胡蝶、琴華ひまわり(108期)
音綺みあ、星姫あやか(109期)
星名りおん、星美音、楓真優(110期)
専科
輝月ゆうま(95期)
